アンハッピー・ウエディング〜前編〜
お嬢さんと上手く行ってるか…か。

「…それは…」

『生活スタイルがまるで違うでしょうから、苦労してるんじゃない?』

「…」

そうだな。苦労してるよ。

まさか高校生にもなって、おままごと遊びに付き合わされるなんて思ってなかった。

「…確かに…戸惑うこともまだ…結構あるけど」

星型のにんじんじゃないと食べられない、とかな。

お金の計算が出来ない上に、自分の服のサイズすら知らないし。

だけど…最初に心配していたように。

俺を小間使い扱いして、傲慢に振る舞うようなことはない。

そういう点では、安心してくれて良い。

「でも、耐えられないってほどじゃないし。すぐ慣れると思うよ」

すぐ…は無理かもしれないけど。

しばらくしたら、慣れることも出来るだろう。

石の上にも三年って言うし。

お嬢さんとの暮らしも、三年くらい経てば慣れるんじゃないか?

…まだまだ先が長いな。

『本当?…大丈夫?』

「大丈夫だよ」

『…ごめんなさい。あなたにこんな…貧乏くじを引かせるような真似を』

…また謝ってら。

母さんが悪い訳じゃないのに。

「良いんだよ、もう謝らなくて。結果的に高校には行かせてもらってるし、そんなに悪い待遇じゃないよ」

あんな学校でも、通わせてもらえないよりはマシだし。

家でのことだって…今のところ、お嬢さんに文句つけられたこともない。

程良く手を抜きながら、息も抜きながら、達者にやってるよ。

「だから、こっちのことは何も心配しないで」

『…無理しないでね。助けて欲しいことがあったら、何でも言って。手伝いにだって行くから』

「分かってるよ。大丈夫だって」

その気持ちだけで充分だ。

心配してくれる人がいるってだけで、充分心の支えになってるよ。

半日近くおままごとさせられて、げんなりしていたけど。

電話越しとはいえ、母さんの声が聞けて…。ちょっと、元気が出た。

やはり、母親は偉大である。
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