アンハッピー・ウエディング〜前編〜
すると、お嬢さんは。

「…」

自由帳片手に、しょぼーん、と落ち込んでいた。

…何?この罪悪感煽ってくる感じ。

俺が悪いみたいな空気になってる。

「そっか…。悠理君は、私と遊ぶの嫌なんだ…」

しょんぼりと呟いたお嬢さんの一言が、俺の良心にグサッと突き刺さった。

そ…そういうつもりじゃ。

「分かった。それなら仕方ないね…一人で遊ぶ…」

一人で遊ぶのかよ。

「ちょ、ちょ、待てって」

「何…?悠理君、迷路したくないんでしょ…?」

いや、迷路をしたくないとかそういう問題じゃなくて。

お嬢さんと遊ぶのが嫌だとか、そういう問題でもなくて。 

「…違う。悪かった、傷つけるつもりじゃなかったんだ」

「…」

「ただ、その…。俺を相手に遊ぶより、友達とか、クラスメイトと遊んだ方が楽しいんじゃないかって…」

「だからお友達の悠理君を誘ったけど、悠理君、今遊びたくないって」

俺はお嬢さんにとって、友達認定なのか?

「俺って、お嬢さんの友達なのか…?」

「え、違ったの…?」

「…」

「…」

お互い、しばし無言で見つめ合った。

俺は…単に、お嬢さんの召使いくらいに思ってたんだけど。

「…悠理君、お友達だと思ってたのに…違ったんだ」

と、お嬢さんはポツリと呟いた。

何だろう。めちゃくちゃ良心か痛む。

「いや、あの…。俺じゃなくても、他に友達が…。そう、女友達がいるだろ?」

「…ううん。悠理君がお友達じゃないなら、私には他にお友達なんていないよ」

「えっ…」

「学校にいるときは、大抵、一人だから」

「…」

お嬢さん、まさかのボッチだった。

…そういえば。

新校舎の中庭で、通りかかったお嬢さんと目が合ったとき。

あのとき、お嬢さん、一人だったっけ。

他の女子生徒達は、二人、三人で歩いていたのに。

お嬢さんは一人で、渡り廊下を歩いていた。

「一人…なのか?何で…?」

「…よく分かんない。他の子に遊ぼって言っても、一緒に遊んでくれたことがないから」

そりゃ、おままごとや絵しりとりに誘ったんじゃ、断られるだろうよ。

俺だって雛堂が鬼ごっこに誘ってきたら、そのときは断るよ。

でも…お嬢さんが言いたいのは、そういうことではなかった。

「小学校…ううん、幼稚園のときからそうだよ。一緒に遊びたくても、一緒に遊んでくれる人っていないの」

「…」

「皆、私が近寄ったら、怖がって逃げていって…」

…それは。

お嬢さんの性格の問題…とかではなくて。

多分…いや、間違いなく、お嬢さんの名前のせいだろう。
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