アンハッピー・ウエディング〜前編〜
「分かったよ。シャボン玉な」

「!良いの?買ってくれるの?」

「良いよ…」

「やったー」

シャボン玉で喜ぶ女子高生、寿々花さん。

お嬢様ってこんなもんなの?小花衣先輩の印象とは全然違い過ぎてて。

気持ちが一番…とか言ってたけど、気持ちさえこもってれば何でも良い訳じゃないからな。

小花衣先輩も、まさかプレゼント渡す相手がシャボン玉で喜ぶとは思ってないだろうなぁ。

「他にないのか?欲しいもの…」

「え?うーん…。ケーキが欲しいな。誕生日ケーキ」

それは言わなくても用意するって。

「あのね、出来ればね、ちっちゃい三角のケーキじゃなくて、おっきい丸いのが良いの」

と、期待に満ちた表情で要求。

あー、はいはい成程。

カットケーキじゃなくて、ホールのデコレーションケーキが良い、ってことね。

誕生日ケーキと言えば、やっぱりホールケーキだよな。

それにろうそくを立てたら、完璧。

「分かった、分かった。白いケーキな?」

「うん。いちごが乗ってる奴」

やっぱりデコレーションケーキのことだな。

「思いっきり、がぶって齧りついてみたい」

顔が生クリームだらけになるから、やめとけ。

小学校低学年並みの願望だな。

「他にリクエストは?何か食べたいものとか…」

寿司でもステーキでも、この際だから寿々花さんの好きなものを何でも…と、思ったが。

「悠理君のオムライスが良い」

とのこと。

あんた、どんだけ俺のオムライス好きなんだよ。

いや、嬉しいけどさ。嬉しいけど…そうじゃないだろ。

「…他に何かないのか?」

「何かって?…あ、そうだ。オムライスに旗が立ってたらもっと嬉しい」

お子様ランチかよ。

「たまには、オムライスじゃなくてさ…。もっと高いものや、手の込んだものをリクエストしても良いんだぞ」

「高いもの…?めるちゃん製麺黄金醤油味とか?」

「いや、カップ麺の話じゃなくてさ…」

そんな味があるの?黄金醤油…どんな味なんだろうな。

それはともかく。

折角の誕生日なんだから、カップ麺でお祝いするのは味気ないだろ。

「他に好きな食べ物は?オムライスとカップ麺以外で」

「えっ。それは難しい質問だな…。…朝食べてる悠理君のお漬物かな?」

「…やっす…」

旗を立てたオムライスに、自家製の糠床で漬けた糠漬けが好物とは。

作ってる俺としては嬉しいことなんだろうが、好きな食べ物があまりに貧相で、とてもお嬢様とは思えない。

オムライス専門店のオムライスが好きなんじゃなくて、俺の下手くそ手作りオムライスが好物だって言うんだもんな。
 
もっと他にあるだろ、何か。

…まぁ良いや。当日までに、俺ももうちょっと考えておくよ。

「何かリクエストが思いついたら、早めに教えてくれよ?」

「うん、分かったー」

…分かったと言いつつも、多分、寿々花さんの口から気の利いたリクエストは出てこないだろうなぁ。

面倒な注文をつけられるよりは遥かにマシ…なのだが。

あんまり簡単な注文ばかりだと、逆にやる気が出ないって言うか…。
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