アンハッピー・ウエディング〜前編〜
桜咲く頃の章3
…さて、花見に行った翌日。

俺がこの家に越してきて、四日目のことだった。

「悠理君、おはよ〜…」

「あぁ、おはよう…」

その日の朝も、お嬢さんは比較的早めに起きてきた。

またしても眠そうに、あくびをしながら。

…案の定、また俺のジャージ姿で降りてきたよ。

着替えてから来いって、昨日言ったじゃん。

世の中には、出掛ける予定がない日は、一日中パジャマで過ごす人が一定数いるそうだが。

俺は個人的に、そういう人は好かない。

風邪引いてるときとかは、着替えられなくてもしょうがないと思うけど。

そうじゃないときは、起きたらちゃんと着替えようぜ。

寝間着は寝間着だろ?けじめってものが大切だと思うんだ。

例え、その日に外出の予定がなくても。

せめて、ルームウェアに着替えるくらいはしようぜ。

だらしないだろ。

ましてやこのお嬢さん、俺のお古のぶかぶかジャージを着ている訳で。 

おまけに寝癖も酷くて、見るに堪えないだらしなさ。

「ねぇねぇ、朝ご飯は何?わかめラーメン?」

「カップ麺じゃねぇから。今朝は普通に…トーストと目玉焼きとスープだよ」

「わーい。美味しそう」

至って普通の、何の変哲もない朝食なんだけどな。

この程度で喜ぶとは…。

いや、そんなことはどうでも良いんだよ。

「…あのな、昨日も言ったけどさ」

「あ、ジャムがある。ジャム美味しいよね。そのまま食べよー」

「こら。ちゃんとパンに塗って食べろって」

誰がティースプーンでジャムをすくって、そのまま舐めてんだ。

お行儀が悪い。お行儀が。

あんた、無月院のお嬢様だろうが。

あ、そうだ。ジャムと言えば。

「いちごジャムなんだけど、ブルーベリーの方が良かったか?」

「ううん。いちごが好きだよ」

そうか。そりゃ良かった。

色々種類あったから、どのジャムにするか結構悩んだんだよ。

自分が普段、トーストなんて食べないもんだから。

最近は、ピーナッツクリームやチョコクリーム、なんてのも売ってるんだな。

いかにも甘ったるそうで、俺はあまり好きになれなさそうだった。

「もぐもぐ。悠理君のご飯は美味しいねー」

「そりゃどうも…って、ただパン焼いただけなんだけどな…」

その程度、料理とも言えないよ。

褒めてくれるのは、素直に嬉しいけどさ。

…。

…って、そんなことはどうでも良いんだよ。
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