アンハッピー・ウエディング〜前編〜
夏の日差し浴びる頃の章5
…俺の誕生日が終わった、数日後。

俺はその日、ちょっとした戦いに挑もうとしていた。

と、言うのも…。






「…よし、寿々花さん。戸締まりは確認したな?」

「うん。全部の窓閉めたよー」

「新品の脱臭剤の用意は?」

「ここにあるよ。いっぱい買ったねー」

「通販で買ったばかりの、空気清浄機の様子は?」

「ちょっと待ってね。スタートボタンをピッ…。うん、ちゃんと動くよ」

「よし」

準備は完璧だな。

これなら、始めても良さそうだ。

「良いか。危なそうな香りがしたら、すぐ廃棄だからな」

「大丈夫だよ、今度はきっと」

何故そんなに楽観的なのか。

これまで散々、酷い目に遭わされたのを忘れたか。

俺はもう信用しないぞ。…「コレ」を。

そう、「コレ」とはすなわち、寿々花さんが『ブルーローズ・ドリーム号』で買ってきたお土産。

いかにも怪しげな、外国産のインスタントラーメンである。

本日の昼食は、このインスタントラーメンにするつもりなのだ。

…前回前々回と、ろくな目に遭ってないからな。

凄まじい臭気、そしてケミカルで危険な味。

一応、今のところ腹を壊していないのが奇跡みたいなもんだ。

そこで今回は、様々な対策を講じてみた。

まず、異臭に備えて家中の窓を閉め、外部に異臭が漏れるのを防ぐ。

同時に、ダースで買ってきた超強力脱臭剤(新品)を用意。

極めつけは、通販で買ったこの新しい空気清浄機だ。

どんな異臭でも耐えられるように、かなり高性能なものを購入した。

これで異臭対策は完璧。

安心して、このインスタントラーメンを開けられるぞ。

…まぁ、味の方は対策のしようがないんだが。

一応、口直しにお茶漬けと梅干くらいは用意しておこう。

…え?何でそこまでして、そのインスタントラーメンを食べようとするのかって?

勿体ないだろ。このまま戸棚の肥やしにしたら。

その為に空気清浄機をわざわざ買う方が勿体ないだろって?

…確かに。

それはともかく。

「よし。それじゃ…作るからな」

「おー。頑張ろー」

今日作るインスタントラーメンは、寿々花さんが買ってきたお土産ラインナップの中でも、特にヤバそうな代物である。

『ブルーローズ・ドリーム号』限定、青薔薇味のインスタントラーメンだ。

何なんだよ。青薔薇味って。

バラに味なんかあるの?全然想像がつかないんだけど。

パッケージは謎にドス黒いし、何て書いてあるか読めないから、作り方もよく分からないし。

…普通のインスタントラーメンみたいに作って良いんだよな?多分。
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