「きみを愛することはないし、きみから愛されようとは思わない」と宣言した旦那様と宣言された私の結末~それでしたら旦那様、あなたはあなたが真に愛する人とお幸せに~
 たしかに、フェリクスの言う通りかもしれない。流行り病ともなれば、癒しや加護の力や慈善活動以前に、領主や地方や国が対処すべきこと。

 いくら国境に接しているからといって、わざわざ隣国に助けを求めるのは筋違いな話。しかも、国じたいではなく領地にである。

「話は以上だ」

 なにも言い返せないでいると、フェリクスは立ち上がって背を向け窓を開けた。

 草と陽光の入り混じったにおいが、執務室内にふんわりと侵入してきた。

 両方の拳を握りしめていた。手が真っ白になるまで。

 いつものように、わたしの存在を否定しているフェリクスの大きな背中。

 それを見つめる視界がにじんできた。

(ここで、彼の前で涙を流すものですか)

 大きな背中を睨みつけつつ、油断すると頬に伝いそうになる涙を必死にこらえていた。
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