【書籍化決定】転生もふもふ令嬢のまったり領地改革記 ークールなお義兄様とあまあまスローライフを楽しんでいますー

4.なぜかお膝にのっています

 私はルナール侯爵家に連行された。

 精霊ライネケ様の使わした娘として、賓客としての扱いだ。
 
 温かい風呂に入り、新しいドレスを着せられて、孤児だった私は美しく生まれ変わった。
 ルナール家のメイドの手によって、銀の髪はツヤツヤと輝き、天使の輪が光っている。

 ここは、ルナール侯爵家の客間である。
 侯爵と侯爵夫人を待っているのだ。

 私は鏡の前で、キツネの耳をピクピクと動かしてみる。

 ……これは、かわいい。

 自分のことであるが、とても可愛い。

 クルリと回ってお尻を見た。
 長いドレスのお尻の部分が不自然に盛り上がっている。
 フワフワの尻尾がドレスの下に隠れているのだ。

 これじゃ魅力が半減ね。それに動きにくいし……。

 そう思っていると、リアムが部屋にやってきた。

「不自由はありませんか?」

 そう言いながらチラリと私のお尻を見る。
 もっこりとしたドレスが不自然なのだろう。

 恥ずかしい!

 私は思わずお尻を押さえた。

「すみません」
 
 リアムは無表情ではあるが、不自然に目を逸らした。

「いえ、スカートが膨らんでいておかしいですよね」
「そのドレスでは不便ですか?」

 アワアワと私が言うと、リアムが尋ねる。

「……はい……。尻尾が窮屈なんです……」

 オズオズと答える。

「では、尻尾が出るようなスカートを作らせましょう」

 リアムの提案に、思わず嬉しくて、顔を上げた。

「ほかに気になる点はありませんか?」

 リアムに聞かれ、私は戸惑った。

 正直にお願いしたら図々しいかな……。

 言いよどんでいる私を見て、リアムはもう一度尋ねた。

「正直にお話ください。慣れない場所でお困りでしょう」

 真面目な口ぶりに、私は正直にお願いすることにした。

「あの、豪華な丈の長いドレスになれていないので、町の子供が着るような丈の短めなスカートにしていただけませんか?」
「そんなことですか。簡単ですよ。あとで、仕立屋を呼びましょう」

 リアムはそう言うと、椅子に座り、トントンと自分の太ももを叩いた。

「ルネ様。ここへどうぞ」
「? ここって……?」

 私は意味がわからず小首をかしげる。

 すると、控えていたメイドが私を抱き上げ、リアムの膝に乗せた。

「ふぁ!?」

 驚く私を見て、メイドたちはニヨニヨと笑った。

「あの!? 小公子様?」
「なんでしょう?」
「なんで、ここに?」
「ルネ様はお小さいから、テーブルに手が届かないでしょう?」

 さも当然のような顔をして、リアムは言う。

「たしかに、そうですけど……」

 私は前世とのあまりの違いに動揺を隠せない。
 前世では無口で無表情だったリアムに壁を感じ、私は嫌われていると思っていた。
 しかし、今世のリアムはケモ耳姿の私にとても優しい。今もキツネ耳をさりげなく撫でている。

 お兄様は、ムッツリもふ好きなのね。

 そう思いつつ、撫でられるのは心地よい。

 目の前に用意された菓子たちに、グゥとお腹が鳴る。
 ルナール侯爵家に来る前は、いつもお腹を空かせていたのだ。

 私は恥ずかしくなってうつむいた。
 耳まで真っ赤である。

「ルネ様、どうぞお食べください」
「いえ……侯爵様もまだですし……」

 お腹が空いてしかたがないが、お菓子から目を逸らし頑張って堪える。
 はじめから無礼だと思われたくない。

 そう思って思い出す。
 前世ではあたえられた食べ物をガツガツと食べたのに、それについて咎められたことはなかった。 
 当時は気がつかなかったが、侯爵家の人々は、寛大だったのだ。

 あのときはわからなかったけど、お妃教育を受けた今では、どんなにありがたいことかよくわかる。

 お菓子から目を逸らし、堪えている私を見てリアムは小さく笑った。

 そのレアな微笑みに、私はキュンとなる。

 リアムはクッキーのひとつを手に取り、私の口元へ持ってきた。

「では、ルネ様。失礼します。あーん」

 優しい声、甘い香りに誘われて、一瞬唇が開きそうになる。
 しかし、私はフルフルと首を振った。

「ルネ様が食べてくれないと、私も食べられません」

 リアムがそう言って、クッキーを私の唇に押し当てた。
 私は観念して唇を開く。

 懐かしいクッキーの味が口の中に広がった。

「美味しいっ!!」

 王宮では野暮だと笑われる田舎風の固いクッキー。でも、それが今はとてつもなく美味しい。

 ルナール領は王都に比べて貧しいのだ。砂糖もバターも贅沢品だ。だから、侯爵家といえどもそうたくさんは使わなかった。

 懐かしさと嬉しさで、涙が零れる。

 リアムは少し驚いたように瞬きし、私の涙を指で掬った。

「そんなに美味しかったのですか? いっぱい食べてください」

 コクコクと頷くとリアムはメイドに命じる。

「クッキーの皿をここへ」

 メイドはクッキーの皿を持ってきて、私の膝の上に置いた。

「一緒に食べましょう」

 リアムは静かにそう言って、私の膝の上に置いた皿から、自分もクッキーを一枚食べた。

「美味しいですね」
「はい! 美味しいです!」

 一度食べてしまうともう止まらない。
 私は、ポロポロと泣きながらパクパクとクッキーを口に運んだ。

 今までの空腹もあって、あっという間にクッキーを平らげてしまった。

 リアムはそんな私の頭をナデナデと撫でた。
 その撫でかたが絶妙で、うっとりとする。お腹がいっぱいで、リアムの膝は温かく、眠たくなってくる。

 ああ、寝ちゃダメ……。ダメなのに……。

 ウトウト、ユラユラしていたところ、一組の夫婦がやってきた。

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