貴方はきっと、性に囚われているだけ

お昼のお誘い

 翌日。昨日のヒートは何だったのだろうかというくらいの体調の良さだった。首輪を付け、制服に着替える。鞄にだけでなく、今度から手持ちでも抑制剤を持ち歩こうとピルケースに抑制剤を仕舞い制服のポケットに入れた。鞄を持ち、一階のリビングに下りて朝食をとる。
 何時ものように弟の双葉と学校に行き、花梨と合流して教室まで行く。やはり昨日の今日だからか、周りからの視線が次々に刺さる。だが、花梨が目を光らせてくれているからか、そこまでは苦でもなかった。授業中もクラスメイトからの視線は痛いが、授業に集中してどうにか耐えた。

 そして、お昼の時間がやって来た。

「一葉、今日は何持ってきたの?」
 何時も通り、花梨が席までやってくる。花梨は相変わらずコンビニのお弁当のようだ。
「私は何時もと変らないよ?」
「そう言って~。今日は卵焼き入ってる?」
「うん、花梨の分も入ってるよ」
 手作りのお弁当には、必ず花梨にあげる分のおかずも入れてある。「やった!」と喜ぶ花梨の姿を見ながら、お弁当の包みを開こうとしたその時、クラスメイトから声をかけられた。
「楠、生徒会長が呼んでるぜ」
「え?」
 にやにやとおちょくる男子生徒の陰には、確かに琉斗が見えた。視線が合うと、にこにこと笑みを浮かべながら教室に入ってきた。
「楠さん、一緒に屋上でどうだい?」
「え、えっと……」
 周りから向けられる好奇な視線が辛い。流石にこの場合はどう返答すればいいのか、自分でもわからなくなる。
「先輩」
 その時、花梨が徐に口を開いた。
「なんだい」
「私、楠木花梨っていいます。一葉の親友です」
「二人は名字呼び方が一緒なんだね。うーん……一葉さん、て呼んでもいいかい?」
 急に話を振られ、つい「は、はい……」と答えてしまった。しくじったかも知れない。一部の女性徒の視線が痛いくらい突き刺さる。そんなことはお構いなしに、二人は会話を続ける。
「私もご一緒しても?」
「構わないよ。その方が一葉さんも安心するだろうし」
「よし、ならいいですよ」
 何故か勝手に決まってしまった琉斗とのお昼に、一葉は内心小さく溜息を吐いたのだった。
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