ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 中山さんは浴槽にお湯ではなく水を張って、その水が溢れ出した頃に私を浴室に呼んだ。「加藤、おいでよ」と優しげな声の中山さんの元に行くと、ジャケットにタイトスカート、白いブラウスを着た私の髪を掴み、上半身を浴槽に沈めた。体は中山さんに押し付けられ、両手も拘束された。
 息が出来なくて、水を飲んで、苦しくて、私は死ぬのだと思った。先輩にこんな事をされるような覚えは無いが、誰かの代わりに中山さんがやっているのだと思った。

 もうだめだ、死ぬと思って諦めた瞬間に髪を引っ張っられた。息をしたいと思っても出来なかった。咳き込んでむせて、呼吸が出来ない。その姿を中山さんは冷めた目で見ていた。
 やっと呼吸が出来るようになると、また中山さんは私を浴槽に沈めた。何度も何度も、中山さんは私が脱力すると顔を上げるが、私はもう死んでもいい、このまま楽になりたいと思って、身を任せた。楽になりたかった。
 だが中山さんはそれを許してくれなかった。

「ヤラせてくれるならやめてあげるよ?」

 嘲笑含みの声が私の耳に流れ込んだ。
 だが私は「嫌です」と言った。言って中山さんの目を見ると、中山さんは人間の目をしていなかった。
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