ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 途中にあった自動販売機で飲み物を買い、私たちはベンチに座った。

「葉梨、どうしたの?」

 葉梨は答えない。真っ直ぐ前を向いたままだ。
 私は背もたれに背を預け、空を見上げた。

 ――まだ、お腹が苦しい。

 輝く月を見上げながら視界の端に葉梨を入れているが、一ミリも動かない。
 だがようやく葉梨は口を開いた。

「こんな事、先輩にお話する事ではないです。すみません。やめておきます」

 終わった恋の話だろう。
 岡島からは、葉梨の仕事に関しては問題無いと聞いている。仕事でないならプライベートだ。でも葉梨は話さないと決めた。
 ならば私は聞いてはいけないだろう。だって『加藤さんに』でもなく、『女性に』でもなく、先輩に話す事ではないと言ったのだ。聞いてはならないだろう。

 葉梨が何も話さないのなら、私は中山陸さんの話をしようと思った。
 初めての出会いから六週間のトレーニング、任務後の療養中の事だ。任務の事は、話せる事と話せない事がある。

「葉梨は警察官になって後悔したことある?」
「うーん、まあ、あります」
「そうだよね、私ももちろんあるよ」

 私はマンションに監禁状態にされた時、中山さんが初めにした事を話した。

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