ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 私は警察官を拝命し、初任地は両親へ正しく明らかにしたが、松永さんと仕事をするようになった五年前から両親へ所属を偽っている。
 最初は松永さんと同じように、『音楽隊で楽器を拭く係』と言っていたが、嘘がバレてからは警視庁本庁の広報課に勤めていると言っている。
 だが父は疑っている。

 父は長く法人課税部門にいるせいか、警察官とは違ったアプローチの仕方で人を追い詰めて来るのだ。私は国税局職員って怖いなと思った。
 だが警察官の仕事だっていろいろあるのだ。守秘義務もあるのは父も分かっている。それでも聞きたいのだろう。娘の晴れ姿を一度は見てみたいのだ。
 だから私は言った。イベントでピーポくんの中の人をやっていると。私はその為のトレーニングをする事も仕事であると言った。

 私がそう言えば父は察してくれるだろうと思ったのだ。ピーポくんの中に人はいるが、いない事になっている。それについて触れてはいけないのだから。
 だが父は挫けずにピーポくんがいるイベントに行き、中の人が娘なのか確認していると言う。

「中の人、複数人いるよね」
「中に人などいない」
「一人、凄いアクロバティックな動きをする人がいる」

 ――それは中山陸さんだ。

「中に人などいない」

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