ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 私は昨年このマンションを買ったのだが、そのきっかけとなったのは父の言葉だった。

『奈緒ちゃん、そろそろ……』

 二十五歳を過ぎた頃から、この言葉を頻繁に言われるようになって私も考えたのだ。そして私は勉強をして、昨年やっと良い物件があったからローンを組んでマンションを買った。

 だが父は私がマンションを買った事に驚き、なぜだと言った。私は『そろそろ家を買え』という意味だと思っていたから、父こそなぜそんな事を言うのかと思った。
 そのやりとりを聞いていた母は、言葉足らずの父の血が流れる娘を懸念していた。

 ――お母さん、娘も立派な言葉足らずに成長しているよ。

「奈緒ちゃん結婚は?」
「相手がいないよ」
「お見合いする?」
「所属を偽る警察官を信用する人はいる?」

 父は娘の幸せを願っている。それはどこの親もそうだろう。だが時代は変わったのだ。
 女にとって結婚する事が一番の幸せだとは言い切れないだろう。

 男は働き、女は家庭を守る時代は終わった。
 保育園に子を預けて働くなんて子が可哀想、子が幼いのに働くなんて我儘だ、嫁を働かせるなんて甲斐性無しの夫だと言われた時代から、子を預けて働く女性が当たり前になるまであっという間だった。
 だが女性も働いているのに、家事育児は女性が割りを食うのは今でも変わらない。
 その結婚は女性にとって幸せなのだろうか。

 母も公務員で働いているのに、家事育児は母に丸投げしていた父だ。そんな夫と結婚して良かったと母は思っているのだろうか。

「結婚は考えてないよ」
「うーん……」

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