ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 母は、私が子供の時も思春期の時も三十二歳になった今も父が好きなのは、自分が私に父の愚痴を言わなかったからだと言う。

「お母さんにとってはお父さんは良い夫なのよ」

 母は父に対して、子煩悩な父であって欲しいと願ったという。
 仕事柄、子を通して家庭環境や夫婦関係が見える立場にいる以上、母はそう願ったのだろう。

「お父さんね、毎日肩を揉んでくれるのよ」
「そうなの?」
「あと足のマッサージも」

 子供が寝た後の夫婦の時間は、父は母を労る時間に充てていたという。私はそれを知らなかったとは言え、見える部分で父を判断していた事を恥じた。

「お父さんね、お母さんの代わりに保育園のおたよりも作ってくれたのよ」

 ――ほのぼのおたよりが国税局職員作。

「奈緒ちゃんは、この人の子供を産みたいなと思う男性と出会えたら結婚すれば良いよ」
「……子供」
「うん」

 私は自分の腹に手を当ててみた。いつかここに命が宿る日が来るのだろうか。
 恋人は相澤が良いと思っているし、夫も相澤が良いと思っている。だが、相澤の子供を産みたいと思った事は無かったなと、母の話を聞いて思った。
 相澤と結婚したら相澤に似たちびゴリラが産まれるだろう。私はちびゴリラの母になるのか。

 相澤に想いを伝えたら受け入れてくれるだろうか。
 私は相澤との関係を失くす事が怖くて、想いを伝える事が出来ない。

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