ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 午後十時十二分

 私は今、両親を見送っている。

 マンション付近のコインパーキングに停めた車はフラップ板を越え、私の前で止まった。

「気を付けてね」
「うん。楽しかったよ。またね」

 後ろの席でシートベルトに守られながら体が斜めになっている父は、機嫌良く「奈緒ちゃんまたね!」と言いながら両手を振っている。
 そんな夫を横目で見て微笑む母を羨ましく思った。

 坂道を唸りを上げて登って行くコンパクトカーは私を置いて去って行く。

 ――結婚か。私だってしたいよ。でも……。

 その時、ジャージのポケットに入れたスマートフォンが鳴った。葉梨だった。

「もしもし」
「こんばんは、葉梨です。今お電話よろしいですか?」

 葉梨が電話を掛けてくるのは珍しい。
 おそらく予定のキャンセルだろう。これまでもそうだった。

「二十七日なんですが、別の日にお願いしたいです」
「うん、いいよ」
「申し訳ございません」

 岡島からは既に連絡が来ていた。飲み会に葉梨も連れて行く、と。その日付が二十七日だったが、岡島には葉梨と会う日だとは言わないでいた。葉梨は岡島へ先約があると岡島へ言っただろう。だが岡島を優先させたようだ。

 ――ちょっと悲しいな。

「良いよ、また連絡して」
「はいっ!」

 きっと、岡島は私との約束があったと知った上で、どうしてもとゴネたのだろう。

 ――物理的に抹殺してやる。

 私は真剣に岡島を抹殺する方法を調べようと思った。


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