ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 カウンター席でオムライスを食べていると、中山さんが隣に来た。
 葉梨を放置するのは危険だろうと思い振り向くと、いつの間にか白いプルオーバーを脱がされていた葉梨は長袖のインナー越しに胸を揉まれている。だが魑魅魍魎の扱いに慣れたのだろう。上手いことあしらっている。さすが葉梨だ。

「お前本当によく食うな」
「おかげさまで」

 私は中山さんとは夏以来会っていなかったが、松永さんとは何度か会っているようで、松永さんが私の体型の変化について悩んでいると教えてくれた。

「お前みたいな化け物って、なかなかいないんだよ」
「化け物」

 身長一メートル六十五センチ以上、痩せていて筋力体力のある人間の事を指している。本来は男がする任務なのだが、お試しで私を訓練してみたら合格して今に至る。後任を探したが少子化に貢献しただけで終わった。

「松永がさ、丁寧に食べた手羽先の唐揚げのお前が適当に食べた手羽先になったって言ってた」

 ――肉が残ってる、という意味だろうか。

「二キロ」
「えっ?」
「お前があと二キロ増えても、俺らは対応出来るように既にしたから無理しなくていい」

 中山さんは、上限体重が二キロ増えた事で該当者が増えるから後任をまた探せと言う。

「鬼子母神奈緒をナメてはいけませんよ」
「あれな、本当にびっくりしたな」

 独身警察官が次々と妊娠するという事態を重く見た上の方の人たちは、私を全署出禁にした。本気で意味が分からなかったが、配置転換や産休対応を考えたらそれがベターな判断だったと今は思う。

「いらっしゃいませーって、あらおひさー!」

 野太い声が来店客を出迎えるが、そこにいたのは須藤さんだった。
 須藤さんはソファ席で魑魅魍魎から胸を揉まれている葉梨を二度見したあと、私たちがいるカウンター席を見た。

「お誕生日おめでとう」

 優しい笑顔の須藤さんは中山さんにソファ席へと誘う。
 私に「もっと食べなよ」と囁いた中山さんは頬を緩ませて席を立った。
 中山さんは須藤さんを慕っている。
 須藤さんは仕事を捨てて今夜はやって来たのだろう。須藤さんは後輩や部下の面倒見が良い。だから家庭がダメになったのだが。

 新しい恋人はあれからどうなったのかと思うが、なんとなく、大丈夫そうな気がした。
< 161 / 257 >

この作品をシェア

pagetop