ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 葉梨はウエイターにメニューを見ながらワインの名前らしき言葉を言っている。呪文のようだ。
 私の人生に無関係そうな言葉は、私の耳には残らない。右から左へと流れていく。

「どんなワインを頼んだの?」
「加藤さんが好まれるような白ワインです」
「ふーん……」
「加藤さんと初めてお会いした日、同じ日本酒を三合続けて飲まれましたよね」

 ――女将さんが勧めてくれたワインみたいな日本酒だ。すごく美味しかったやつだ。

「その日本酒に似たワインですよ」
「そうなんだ」

 葉梨と初めて会ったのは去年の一月だ。そんな前の事をよく覚えているなと思うが、葉梨は人をよく見ている。私が何をしていたかなど、全て覚えているのだろう。
 二の腕ムニムニの女将さんの件は、問題は既に解決している。あの日、葉梨が気づいてくれたから、女将さんと大将の夫婦仲に波風が立たずに済んだ。お店も問題なく営業している。

「葉梨、またさ、あの居酒屋に行こうよ」
「ええ、ぜひ行きましょう」
「二人でさ」
「はい!」
「二人で行かないと、葉梨は何も食べられないからね」
「ふふっ、そうですね」

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