ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第32話 エスコートと呪文とメッセージと

 午後七時二十五分

 フレンチレストランに入り、大きい方のカバンをクロークに預けようとスタッフに近づこうとした時、葉梨は私の前に入って「俺が預かります」と言い、葉梨がスタッフへ渡してくれた。

 ――そうだった。全て男性に任せないといけないんだった。

「お席まで、ご案内いたします」

 スタッフはそう言うと私たちを先導するが、葉梨はそっと私の背中に触れて、先に行くよう促した。

 ――慣れてるな。さすが将由坊ちゃまだ。

 葉梨は私の椅子を引いてくれた。エスコートが完璧だ。
 官僚の子息で実家が太く、性格は温厚で真面目な葉梨は婚活パーティーなら優良物件だろう。だが高卒警察官だから給料はまだ安いし、そもそも学歴でハネられてしまう。

 ――もったいないな。

「加藤さん、ワインのお好みはありますか?」

 ――日本酒ならありますが。

「ワインは詳しくないから、葉梨にお任せするよ」
「わかりました」

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