ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 お皿に乗るちまちましたフレンチを熊が食べている。
 コースメニューだが、葉梨はオーダーしていない。事前に予約していたメニューなのだろうが、統一感が無い。魚か肉か、通常はどちらか選ぶものだが、魚も肉も出てくるし、私の好きな海老は前菜からずっと続いている。美味しい。肉、魚、海老。味の、玉手箱。

 葉梨も私も共によく食べる。ちまちまフレンチではお腹いっぱいにはならないが、会話と料理を楽しむディナーもたまには良いものだ。

「海老がいっぱい」
「加藤さんは海老がお好きですよね。なのでご用意しました」
「んふふっ……ありがとう。すごく美味しい」

 葉梨は笑っている。いつもよりよく喋る。仕事の話をしているが、いつもより楽しそうにしている。葉梨も楽しいのだろう。仕事に追われ、食事をゆっくり楽しむ事など出来ないのだから。

「あの、加藤さん」
「なにー?」
「コースの最後に軽くデザートが付きますが、バースデーケーキは向こうのバーラウンジで出してもらうようにしました」
「そうなんだ」
「大きなケーキではありませんが、レアチーズケーキのバースデーケーキです」
「んふふっ……レアチーズケーキ、私が好きなの覚えていたんだね」
「はい」

 本当に葉梨は細かい事に気づくし、よく覚えている。
 仕事も有能だし、性格も素行も問題ない。
 岡島が葉梨を可愛がるのもよく分かる。最初に会った日、岡島から『葉梨を仕込め』と言われた時はどういう事だと思ったが、今の私は、岡島と同じように葉梨が可愛い。

 ポンコツ野川も私を慕ってくれている。
 私のリビングダイニングがトレーニングルームでドン引きしていたが、「私も頑張ります!」と言ってトレーニングマシンを一通り使っていた。サンドバッグからは返り討ちに遭っていたが、私にとっては可愛い後輩だ。

 岡島はあの日、葉梨はまだ吸収出来ると、葉梨は白い、誰にも染まりたくないのだろうと言っていた。
 葉梨は、私から何か得たものはあっただろうか。

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