ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 こんなにも充実感を感じる誕生日は初めてだ。
 モスコミュールを口にする葉梨の横顔は、カウンターに置かれたキャンドルの淡い灯影を受けて、大人の色気があるように見えた。完全に、飲み過ぎだ。

「ハンカチ、使って頂けているんですね」

 葉梨にバレンタインのお返しにもらったハンカチを今日は使っている。ピンクの総レースのワンピースだから、白地に赤い薔薇のハンカチを持って来た。

「加藤さん、今日の香水はいつもと違います、よね?」
「えっ……ああ、うん……」

 ――やっぱり合わないのかな……。

「誕生日プレゼントでもらった香水なんだ」

 昨年父がプレゼントしてくれた香水は若い女性向けの香水だった。デパートの店員に「娘の誕生日なんです」と伝えたと言う。父にとっては私はいつまでも可愛い娘なのだろう。三十三歳の誕生日だったのだが。

「プレゼント、ですか」
「うん、父からね」

 葉梨はこちらを向いた。
 私の顔を真正面から見て、「お父様、ですか?」と言った。

 ――疑われている。

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