ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 レストランで私が座った席は上座だった。それは当たり前だが、向かいに座る葉梨の背後に大きな絵画があり、私の視界には葉梨しか入らなかったのだ。
 そしてバーラウンジでは窓の向こうに夜景が広がるが、葉梨に視線を動かすと葉梨しか見えない。

 ――ここで口説かれたら、女は落ちるだろうな。

 新たな恋に向けての予行練習か。葉梨に良い出会いがあれば良いなと心から思う。
 警察官は仕事柄、恋が始まっても長続きしない。警察官と付き合う事を目的として、人としての自分を見てくれない女性に惑わされる事もある。

「お待たせいたしました」

 その声に振り向くと、ケーキとカクテルを持ったウエイターがいた。
 私の前に置かれたレアチーズケーキには小さく切ったフルーツも盛られ、そこにチョコレートで『HAPPY BIRTHDAY』と書かれている。

 葉梨はモスコミュールだが、私にはレアチーズケーキに合うカクテルを選んでくれていた。

「乾杯、しましょう」
「うん」

 グラスを持ち上げる。
 シャンパンゴールドのカクテル越しに見える葉梨の顔は優しく微笑んでいた。

 グラスを合わせ、一口飲む。爽やかな酸味のあるカクテルは、さっぱりとして美味しい。
 レアチーズケーキを一切れ食べてから、葉梨を見ると、優しい眼差しで見つめ返された。

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