ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 午前三時二十九分

 私は今、ベイエリアのタワーマンション三十二階にいる。

 眼下に広がるのは海っぺりのナイスな夜景だ。
 そんな高級マンションのリビングに私たち四人はいる。だが家具も何もない四十畳はありそうな空間に寝袋が三つ並んでいるのはどういう事だ。
 私たちは寝袋に入れられて東京湾に沈められるのかも知れない。そんな事を考えてしまうような情景だ。

「須藤さん。多分ですけど、敬志の手配ミスですよね?」
「ああ、俺もそう思う」

 ――やっぱりな。

 松永さんは中野区と中央区を間違えたのだろう。でもまあ良い。青海(あおみ)青梅(おうめ)ではなかっただけマシだ。

 車の中で一時間弱の睡眠を取ったチンパンジー親子は少し元気になっていた。
 それでもまだ動くのは難しいようで、二人はさっさと寝袋に収まろうとしている。

「加藤も寝ろよ」
「シャワー浴びてからにします」
「いいね!! 体力残ってて!!」

 そう言って若干プリプリしながら寝袋のファスナーを閉めた中山さんはもう寝息を立てている。早い。一秒も経っていない。

「シャワー浴びて来るけど、早くて三分後には(うな)され始めるから、心の準備をしておきなよ」
「えっと、どのような事が想定されますか?」
「……須藤さんはフラグを立てる」
「フラグ」
「中山さんは多分、たっくんを探す」
「たっくん」

 私が初めて中山さんとペアで組んだ時に須藤さんもサポートで一緒だったが、その時はフラグを立てていた。

 俺、この任務終えたら実家に帰るんだ――。

 いきなり何を言い出すんだ、まさかの死亡フラグかと思ったが、任務後の週末、普通に実家に帰って無事に戻って来た。

 だが今回は松永さん不在の特別任務だったから、フラグを立てるだけじゃ済まないだろう。私は離れて寝よう思った。

「じゃ、シャワー浴びて来るね」

 不安そうな顔をする葉梨に背を向け、リビングのドアに向かった。

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