ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 午前八時二十三分

 私は寝袋から出て、寝ている二人の生存確認をした。
 二人は熟睡している。
 リビングを見渡すが葉梨がいない。キッチンだろうか。

 睡眠時間は少なかったが、体力が残っていたせいか回復はしている。キッチンに行くと葉梨がいた。
 冷蔵庫を開けて飲み物の補充をしていた。

 私はそっと近づき、葉梨の脇の下からそっと手を伸ばして飲み物を取った。

「ひいっ!!」

 観音開きの冷蔵庫のドアに体をぶつけ、こちらを振り向いた葉梨は目を見開いて私を見た。

「びっくりした。もー、加藤さん……」
「アハハハ」

 私はペットボトルのキャップを外してミネラルウォーターを口に含んだ。そして口の中の水分を補給してから言った。

「須藤さん、何か言ってた?」
「ああ、えっと、彼女にプ――」
「葉梨」
「痛たたたたっ!」

 私は葉梨の耳朶に爪を立てて引っ張った。その先を言ってはならない。知り得た情報は漏らしてはならないのだ。

「葉梨、あんたがここにいる意味を、よーく考えなよ」

 意味を探ろうと私の目を見る葉梨は不安そうな顔をしている。私は口元に笑みを浮かべ、背を向けて歩き出した。

 正直なところ、私もなぜ葉梨がいるのか理由を知らないが、少しくらい脅しても良いだろう。油断をしてはならないのだから。だが、そんな先輩の目論見は早くも崩れた。

「俺、この任務を終えたら彼女にプロポーズするんだ」

 ――今、言うな。このチンパンジーめ。台無しじゃないか。

 私は葉梨に振り向かず、そのまま須藤さんの元へと行った。
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