ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第42話 ハイブリッドと女衒と援護射撃と

 九月十八日 午前九時五分

 私は今、上司のチンパンジーを見つめている。

 今日も町内会の防犯講話で須藤さんと一緒に行くのだが、目の前にいる焦点の定まっていない(しな)びた須藤さんはいつもより一回り小さく見える。
 席につき、デスクの正面に立つ私たちを見上げているが、今日は一言も喋らない。大丈夫だろうか。

 私の隣には、先輩である大柄なゴリラと熊のハイブリッドがいる。
 この男は刑事課の間宮(まみや)さん。見た目は暑苦しいが、きっちり仕事をこなす優秀な人だ。
 好みの女の子と出会いたい場合、間宮さんに相談すれば希望通りの女の子を揃えた合コンをセッティングしてくれる信頼と実績の間宮さんだ。

 間宮さんは、私たちや事務職員から女衒(ぜげん)と呼ばれているが、私は女衒の元には複数の遣手婆(やりてばば)がいるはずだと考えていて、そっちの方が気になっている。

「防犯講話は俺が行きますから、須藤さんは俺らが戻って来るまで仮眠を取って下さい」
「……そうはいかない。行く。俺が行く」
「講話の内容は頭に入ってますから大丈夫です」

 町内会との打ち合わせ、講堂を借りる会社との折衝、講話内容の精査は基本的に間宮さんがやっている。
 ならばいつも間宮さんが行けば良いではないか、須藤さんでなくとも良いのではと思うが、いかんせん見た目がゴリラと熊のハイブリッドだ。シャバに出してはならない。クレームが来てしまう。

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