ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
三月十三日
私は今、チンピラと電話している。
玲緒奈さんに言われ仕方なく岡島に電話を掛け、これからは電話に出ると伝えたのだが、あれから毎日電話が掛かって来ている。迷惑だ。
出れない時ももちろんあるが、大体は出れるので岡島と毎日電話するハメになっている。迷惑だ。
九割はくだらない話でムカつくが、一割はまともな話なのでしぶしぶ聞いている。迷惑だ。
「ねえ奈緒ちゃん、なんで葉梨に『十五キロメートルって何の条項?』って聞いたの?」
「葉梨は完全には理解してないから」
「そういう事を言うから葉梨は無理しちゃうんじゃん」
「知らないよ。あんたが仕込めって言ったからでしょ」
葉梨は生活安全部所属だ。仕事が忙しく勉強する間も無い事は理解出来るが、それを言い訳にしてはいけない。
「あんたは警察法覚えてんの?」
「……まあ、なんとなく」
「なら十五キロメートルって何?」
「六十の二の一。管轄区域の境界周辺における事案に関する権限で、施行令七の二の一」
「よく覚えてるね」
「えへへっ、葉梨が教えてくれたのー」
「…………」
「ふふっ、電話だと良いよね、殴られなくて」
チンピラ岡島は隠れてこっそり勉強するタイプだ。要領も良い。葉梨が教えてくれたと嘯くが、岡島は絶対に知っていた。さっさと出世してしまえば良いのだが、面倒なようだ。
「奈緒ちゃんさ、葉梨にあの居酒屋の件、聞いてないでしょ?」
――あ、いけねっ、忘れてた。
玲緒奈さんの事を伝えたら葉梨がしょんぼりしたからすっかり忘れていたのだ。その後の電話でも忘れていた。
「葉梨から聞いてね」
「なんでよ」
「葉梨が何を言うか、どう言ったのか、それを俺に教えてよ」
――試してるのか、私を。
このチンピラめ。
あの居酒屋は誰かの息が掛かってる店だ。既に内偵は進めているのだろう。葉梨が何かに気づき、それを岡島に伝えた。
松永敦志さんの件なのだろうか。玲緒奈さんが岡島の電話に出ろと言うのは敦志さんの件で確定なのか。分からないが、ただ一つ言えるのは、岡島を早めに抹殺すれば良い、という事だ。
――そうだ、図書館へ行こう。
私は今、チンピラと電話している。
玲緒奈さんに言われ仕方なく岡島に電話を掛け、これからは電話に出ると伝えたのだが、あれから毎日電話が掛かって来ている。迷惑だ。
出れない時ももちろんあるが、大体は出れるので岡島と毎日電話するハメになっている。迷惑だ。
九割はくだらない話でムカつくが、一割はまともな話なのでしぶしぶ聞いている。迷惑だ。
「ねえ奈緒ちゃん、なんで葉梨に『十五キロメートルって何の条項?』って聞いたの?」
「葉梨は完全には理解してないから」
「そういう事を言うから葉梨は無理しちゃうんじゃん」
「知らないよ。あんたが仕込めって言ったからでしょ」
葉梨は生活安全部所属だ。仕事が忙しく勉強する間も無い事は理解出来るが、それを言い訳にしてはいけない。
「あんたは警察法覚えてんの?」
「……まあ、なんとなく」
「なら十五キロメートルって何?」
「六十の二の一。管轄区域の境界周辺における事案に関する権限で、施行令七の二の一」
「よく覚えてるね」
「えへへっ、葉梨が教えてくれたのー」
「…………」
「ふふっ、電話だと良いよね、殴られなくて」
チンピラ岡島は隠れてこっそり勉強するタイプだ。要領も良い。葉梨が教えてくれたと嘯くが、岡島は絶対に知っていた。さっさと出世してしまえば良いのだが、面倒なようだ。
「奈緒ちゃんさ、葉梨にあの居酒屋の件、聞いてないでしょ?」
――あ、いけねっ、忘れてた。
玲緒奈さんの事を伝えたら葉梨がしょんぼりしたからすっかり忘れていたのだ。その後の電話でも忘れていた。
「葉梨から聞いてね」
「なんでよ」
「葉梨が何を言うか、どう言ったのか、それを俺に教えてよ」
――試してるのか、私を。
このチンピラめ。
あの居酒屋は誰かの息が掛かってる店だ。既に内偵は進めているのだろう。葉梨が何かに気づき、それを岡島に伝えた。
松永敦志さんの件なのだろうか。玲緒奈さんが岡島の電話に出ろと言うのは敦志さんの件で確定なのか。分からないが、ただ一つ言えるのは、岡島を早めに抹殺すれば良い、という事だ。
――そうだ、図書館へ行こう。