ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 四月十九日 午後二時二十分

 平日昼間の住宅街――。
 桜は散ったが、ミモザが眩しく輝いて青空に映えている。

「今日もいい天気ですね」と葉梨が言う。私は黙って頷いた。二人の間に沈黙が流れる中、私たちは歩いている。
 今、私たちは玲緒奈さんに会うために向かっている。玲緒奈さんの自宅へ――。

 葉梨は濃紺のスーツにネクタイを締め、私はライトグレーのパンツスーツだ。
 私たちは共に菓子折りを持っているが、私も葉梨も同じ菓子メーカーの紙袋を持っている。

 ――被って、しまった。

 悩んだ時はコレ、と八割方の人が納得するであろう菓子だ。名は思い出せないが、薄ーいクッキーをくるくるっと巻いて葉巻のように見立てたクッキーだ。美味しいし、空き缶は何かに使えるから八割が納得するお菓子だ。

「ねえ、何本入りの買ったの?」
「十八本入りです」

 ――二十本と三十本入りしか無かった気がするが。

「十八本?」
「はい、チョコの方を買いました」

 ――裏切り者め。私はノーマルを買ったのに。

 私の顔を見て察したのだろうか、葉梨は口元に笑みを浮かべるとこう続けた。

「末のお嬢さんがこれを好きだと聞いたことがありまして」

 ――葉梨はそこまで把握しているのか。

 私はそんな事を考えてもいなかったのに。二十本でいいやと思ったのに。
 葉梨は凄いなと思う。捜査員としての能力の高さもあるけれど、人の心の動きをよく見ている。私がそこまで気が回らない事を葉梨は見越してした。
 葉梨を尊敬するけど、ちょっと怖いなとも思った。

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