ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 そうか。まだ須藤さんは片思いのままなのか。
 クリスマスのあの日、彼女は想いを受け入れてくれたのだろうと須藤さんは言ったが、関係はそのままなのか。

「素敵な女性なんですね」
「そうだね。俺なんていなくても生きていける強い女性だよ」
「……そうなんですか」
「だから好きなんだよ」

 ――須藤さんが! 惚気けた!

警察官(サツカン)だから近寄る女にも、公務員だからと近寄る女にもウンザリなんだよ。色目使って近寄る女にも、一人で生きていけない女にも、ね」
「あー……」
「彼女の見た目は小柄で化粧っ気なくて大人しそうな女性だけど、中身は男前」
「男前」
「ああ、見た目を例えるなら、防犯講話の担当者、石川さんに似てるよ」

 石川さん、か。
 須藤さんは石川さんを化粧っ気がないと言うが、あれはかなり作り込んだナチュラルメイクだ。男にはわからないのだろう。
 まあ、石川さんの気合いの入ったナチュラルメイクは職人技だとは言わないで良いか。

「石川さん、この前お会いしたときに素敵なヘアクリップをお召しだったんですよ。レース編みで、白とピンクの花がたくさん付いたクリップでした。レース編みでもヘアアクセサリーって出来るんですね」

 須藤さんの目が少し動いた。なせだ。

 ――もしかして、須藤さんの彼女って石川さんなのだろうか。

 共通の趣味がレース編みだと言っていた。
 あのレース編みのクリップは須藤さんの手作りなのか。須藤さんが来るから、石川さんはクリップを付けていたのか。でも、まさか石川さんじゃないだろう……。

「ふふっ、奈緒ちゃん、気づいた?」
「えっ、あの、須藤さんの彼女って石川さんなんですか?」
「そうだよ。石川さんと面識があるのは敦志と奈緒ちゃんだけ。玲緒奈さんは又聞き。奈緒ちゃん含めて三人だけだよ。秘密は守ってね」
「……はい。もちろんです」

 なぜ、須藤さんは私に教えてくれたのだろうか。
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