ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 プライベートの話はしたくないのだろうか。須藤さんの目を見ても、特にそんな雰囲気ではないが……。

「ねえ奈緒ちゃん。クリスマスに白い薔薇を選んでくれたでしょ?」
「はい」
「彼女は喜んでくれたけど、俺さ、意味を問われて、奈緒ちゃんが教えてくれなかったから困ったんだよ」

 ――そうだ。意味を須藤さんに伝えなかった。

 白い薔薇は葉梨が選んだが、葉梨には秘密だと言ったから葉梨も意味を説明出来なかったのか。

「申し訳ありませんでした」
「ふふっ、大丈夫だったよ」
「えっ……?」
「彼女には、『解釈はお任せします』って言ったから」
「んふふ……さすが須藤さん」

 そうだ。白い薔薇五本の解釈はいくらでも出来るのだ。葉梨が込めた意味はわからないまま。私もどう受け取れば良いのか、答えを保留にしている。

「俺もさ、白い薔薇五本の意味を調べたけど、たくさんあるんだね。ふふっ、彼女がどう受け止めたのかは、わからないけど」
「須藤さんは、どんな意味を込めました?」
「あー、うーん、そうだなー」

 須藤さんは頬が緩んでいる。
 私に、こうしたプライベートの話をしてくれるようになったのはクリスマスの白い薔薇の時からだ。
 昨夏までは松永さんを介してでないと近寄れない雰囲気があり、私は須藤さんが少し苦手だった。直属の上司ではあるが、私に対してきっちりと線引きをして、元からセクハラはしないがパワハラも無かった。

 ――関係が近づくとパワハラをされる。最悪じゃないか。

「ふふっ」
「ん? 奈緒ちゃん何よ?」
「えっと、須藤さんは、『この先もずっと相思相愛でいたい』あたりの意味を込めたのかなと思いまして」
「あー、いいね、それ」
「それで?」
「んー、そうだな。『心から尊敬しています』かな」
「えっ……」

 須藤さんは私に優しく微笑んでいる。
< 249 / 257 >

この作品をシェア

pagetop