ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 午後九時四十四分

 自宅に戻った私は風呂に入ろうと洗面所に行くと手に持ったスマートフォンが鳴った。画面を見ると葉梨からメッセージだった。

 ――官舎に戻った時刻、だ。

 葉梨は官舎とは逆方向へ行ったが、こうしてまっすぐ官舎に帰った場合の時刻にメッセージを送ってきた。ならば仕事ではなくプライベートだったのか。

 ――なぜこんな事をするのだろうか。

 私はリビングに戻り、電話のアイコンをタップしてチンピラ岡島に電話を掛けた。
 呼出音がして、三回鳴った時に岡島は出た。

「もしもーし! 奈緒ちゃんから電話くれるなんて嬉しいなあー」
「あの……」
「あははっ! 奈緒ちゃん元気そうだね!」

 岡島は車内にいて、誰かいる。公用車だろうか。
 私に違和感を覚えたのか、ドアを開ける音がして、岡島は車から出た。静かな場所だ。衣擦れの音がする。少し移動したようだ。そして岡島は声をひそめて言った。

「奈緒ちゃん、どうしたの?『バカなの』って言わないの? 体調悪い? 何か嫌な事でもあっ――」
「あの、会いたい……だめ?」
「えっ……」

< 34 / 257 >

この作品をシェア

pagetop