ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第13話 螺旋階段とソファと優先順位と

 午後三時十八分

 私は今、衝撃に耐えている。

 葉梨の実家で出迎えて下さった、花柄のエプロンをした小柄な女性は葉梨のお母様ではなかったのだ。

「加藤様、お待ちしておりました」

 にこやかに私の訪問を歓迎して下さったその女性はお手伝いさんだった。
 その女性の向こう側、玄関と玄関ホールで二十畳以上はありそうな家なのだが、二階まで吹抜けで正面は螺旋階段だ。
 上りきると廊下は左右に伸びていて、玄関正面の、その二階の廊下の向こうの大きな窓にはステンドグラスが嵌め込まれていた。

 高卒公務員夫婦の私の実家は普通の家だ。
 番犬のマロンは犬小屋を倒壊させるアホな子だ。

 だが葉梨はどうだ。葉梨の父は元官僚で天下り中、姉と妹は官僚だと言う。なぜ長男の葉梨は警察官なのかと聞けば、駅の改札口でスカウトされたからだと言う。それは事前に調べていた件だったな、と思いながら聞いていたが、官僚を目指さなかったのか、親は高卒警察官に反対しなかったのかと聞くと、賛成してくれたという。

 ――すごく、意味が、分からない。

「さ、加藤様、応接間へどうぞ」

 ――応、接、間、だと?

 この玄関ホールを見ただけで分かる。本当に応接間があるのだろう。うちはダイニングテーブルでだいたい済ませるのに。

 私はただ葉梨と二人きりになれる静かな場所を探していただけなのだ。それは官僚の自宅の応接間では無い。なのに、どうして、こうなった。

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