ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 午後五時五十分

 私は今、衝撃に耐えている。

 葉梨そっくりの小柄なお母様と、背が高くて品の良いお父様から、葉梨の誕生時の写真を見せられた。そこで終わるのかと思ったが、甘かった。
 そこから葉梨の幼稚園入園、卒園、小学校入学、運動会、遠足、社会科見学、家族旅行、習い事の発表会などの葉梨ヒストリーを聞かされて、写真を見せられて、二時間以上が経過しているのだ。

 ――まだ小学校を、卒業していない。

 当の葉梨は隣にいるが、モメラニアンの新入りのウニちゃんを太ももに仰向けにさせ、お腹をこちょこちょさせながら笑っている。
 もう一頭のクルミちゃんは私の膝の上で寝ている。

 ――私は何をしに来たんだっけ。

 だが、今日で葉梨を形作る物が理解出来た。
 御両親に愛される葉梨は正しく育った良い子だ。
 警察官となり闇金の取り立てみたいな格好が似合うようになってしまったが、一升餅を背負うチビ葉梨、道着を着るチビ葉梨、ピアノを弾くチビ葉梨、ランドセルが小さいチビ葉梨、どの写真にも可愛く笑うチビ葉梨がいた。
 写真を眺める御両親は頬が緩みっぱなしだ。

 ――あたたかい家庭。

 微笑ましくて、私は葉梨の実家に来て良かったと思った。だが、走って帰りたい気持ちは変わらない。
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