ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
「もしもし」
「あ、奈緒ちゃん? 今カステラ食べてるでしょ?」

 ――コイツ、読めるのか、私の思考を!

「うん。なんで分かるの?」
「十五日に葉梨の実家に行って桐箱に入ったカステラを土産にもらったでしょ? なら食べ頃は今日だから、奈緒ちゃんは喜び勇んで食べてるだろうなと思って」

 ――葉梨家のお土産は桐箱入りカステラが標準仕様なのかな。

「うん、美味しい」
「美味しいよね、あのカステラ」

 チンピラ迷惑電話は迷惑なのだが、カステラが美味しい事は同意するしかなく、しぶしぶ話を聞いていると、チンピラは驚くべき事を言った。

「うちの冷凍庫にいつもあるよ」

 うちの冷凍庫にいつもあるようちの冷凍庫にいつもあるようちの冷凍庫にいつもあるよ……なぜ、あるのだろうか――。

「なんで?」
「葉梨が入れておいてくれるから」

 カステラは冷凍庫で保存するものなのだろうか。カッチコチになっても解凍すれば元のカステラになるのだろうか。

「食べ切れないカステラはラップで包んでチャック付きの袋か保存容器に入れておけばいいよ」
「そうなの?」
「うん。食べる時はちょっと置いておけば良いよ」
「そうなの?」
「うん、カステラは凍らないから」

 なんということだ。カステラは凍らないのか。それは検索すれば出てくるのだろうが、知りたかった事をチンピラから教えられて検索せずに済んだのだ。
 私は初めて、岡島ナイス、と思った。
 ならば紙の事も聞いてみよう。

「あのさ、カステラのあの紙ってさ」
「ああ、一番美味しい所がくっついてムカつく紙?」
「うん」
「温めればいいよ」
「そうなの?」

 岡島は続けた。温めるとザラメ糖が溶けて紙と分離しやすくなると。ペリッと、ペリッと楽に剥がせると。

「葉梨の親父さんが教えくれた」
「そうなんだ」
「親父さんは『甘くて美味しい所なのに勿体ないよね』って言ってた」

 ――お父さん、国家公務員も地方公務員も考える事は同じなんだね。

「ねえ奈緒ちゃん」
「なにー?」
「葉梨の事」
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