アビス

002





午前中に入っていた
仕事の打ち合わせがなくなって


突然の休日になってしまった。




それに、姉さんの命日だ。


家の近くにある花屋に行き
お供え用の花を買い、線香などを購入し


車を20分ほど走らせて

姉さんのお墓へと顔を出した。









姉さんの墓の前に着くと、

真新しい線香の灰と
花が供えてあった。



「ん…?誰か来てくれたのか…?」



僕は家族の誰かが先に来たのか
ぐらいに考えて

姉さんの墓石を綺麗に拭いて

線香に火をつけて

手を合わせた。





18歳でこの世を旅立った姉さんの
年齢を越してしまって

僕は22歳になった。


姉さんがいなくなってしまってからも


世の中の時の流れが
止まることはなかった。





墓参りを終えた僕は、


友達が最近カフェをオープンした

と言っていた話を思い出して
せっかくなので顔を出してみる事にした。



教えてもらったカフェに着くと


お客さん数人がカウンターに座っていた。





『あー!!来てくれたんだー!』


そう言ってカフェをオープンした友人が

笑顔で駆け寄って来た。



「うん、オープンおめでとう。
てか忙しそうだしまた今度落ち着いてる時に
顔出すよ」


『いやいやいや!大丈夫大丈夫。
カウンターは埋まってるけど
こっち座って!』


そう言って僕の両肩を掴んだ友人は

2人用の席に座らされた。



『混んでるように見えるけど
カウンター全員同級生だからww』


友人はケラケラと笑いながら
カウンター内へ戻って行った。


友人は友人でも、

僕よりも年齢が少し上だった為


カウンターに座る友人の同級生の方々に
僕は、軽く頭を下げた。




料理のメニューを見ると
美味しそうなランチプレートが
たくさん載っていた。


僕はオムライスプレートを頼んだ。


すると友人が、


『オムライスwwチョイスが子供だなww』


バカにしてゲラゲラと笑う友人。



「うるせーなぁ!メニューの種類が
少ねぇんだよww」


友人にイジられて

オムライスを選んだことに
恥ずかしくなった僕は

低レベルな言い返しをしたが

メニューの種類が少ない
なんてのはいうのは嘘で


むしろ種類がありすぎていた。







しばらくして、

オムライスプレートが運ばれて来た。



『はいっオ・ム・ラ・イ・ス♡』


料理を運んできた友人が
またイジってきた。


「いいからちゃんとほら働けよっ」


茶化す友人をカウンター内へ追い返した。




「いただきます」






オムライスも美味しかったけど

ランチメニューで一緒に付いてきた
スープも美味しかった。




しかし、二口目を口に運んで

僕は苦い顔をした。



うわ…


これはまさか…





嫌いなグリンピースが入っていた。


口に入ったグリンピースは
もう飲み込むしかなくて

どうにか頑張って飲み込んだが、


まだオムライスの内部には

グリンピースが残っていた。


友人には申し訳なかったけど

僕はスプーンでグリンピースを
避けてお皿の隅に退けた。







一生懸命グリンピースと
戦っていると


視界の片隅に何かが来たような気がして

視線をそっちに向けると、


小さな女の子が、

グリンピースを避ける僕を
ジーッと見つめていて

目が合った。






『グリンピーシュ、嫌いなの?』


少女が僕に聞く。



「あ…う…うん…ちょっとね」


急な出来事に驚いたが

正直に、苦手なんだと答えると、


女の子はニコニコ笑って


『みおもグリンピーシュきらーい!』


と言い出して

「みおちゃんてお名前なの?
グリンピース嫌いなの同じだね」


グリンピースのスが言えなくて
シュって言ってしまう感じが可愛くて

僕も笑顔になった。



『こらみお!お兄さんのご飯
邪魔しちゃダメよー!』


そう言って、カウンターに座っていた
友人の同級生の1人の女性が立ち上がり


僕の席を覗きこむ

その少女を迎えにきた。



『ごめんね?邪魔しちゃって』



「あ、いえ全然大丈夫です」



お互いに頭を軽く下げて


親子なのか、その女性は

ジタバタする少女を抱き抱え

カウンター席へ戻って行った。





食べ終えて、

レジ前で会計をしている時に

友人にグリンピースを
残してしまった事を謝ると、


『じゃあ次からは特別に
グリンピース抜きのオムライスね♡』


と、またイジって来た。




「うるせーなw
じゃあ、また来るよ。美味しかった」


『サンキュー!待ってるわ!』



店前まで友人が見送ってくれて


僕は車に乗り込み


自宅まで車を走らせた。


















それから、仕事終わりなど
休みの日には友人のカフェで

ご飯を食べる頻度が増えた。


ちゃんとオムライス以外もね。笑



オムライス以外の料理も
しっかり美味しかった。




そして、ある日の仕事終わり


また友人のカフェに寄ると

あの親子がカウンターに座っていた。



『隣でもいい?』


と、友人に案内され

あの"グリンピーシュ"少女の隣に座った。




少女と目が合うと、


『お兄ちゃん、グリンピーシュ
食べれるようになった?』


と、聞いて来た。


「ううん、みおちゃんは?」


『みおもまだきらーい!』


そんな和やかな会話をして
僕達はケラケラ笑った。




すると、少女の母親が


『みおが誰かにこんなに
話しかけるの珍しい…』

僕らのやりとりを見て言った。



「そうなんですか?
人懐っこい子なんだと思ってました」


『いやいや全然!
普段なんて知らない大人に
絶対自分から行かないから』



へー…なんでだろ…。


周りの人に比べたら
優しい顔なんてしてる訳でもない。


不思議な子だと思った。







時間があっという間に経過して


友人のカフェも閉める時間帯になった。


僕はお会計をして
いつものように帰ろうとすると、


みおちゃんが後ろから
僕の服を掴んだ。



『………』



だけど下を向いて
服を掴んだまま何も言わない。


僕はみおちゃんの視線の高さに
合わせるように、しゃがんだ。



「どうしたの?」



『また会える?』




意外な言葉だった。



「うん、また会えるよ」




すると、みおちゃんのお母さんが

『ねぇ、ごめん。
嫌じゃなかったらでいいんだけど

みおが珍しく気に入ってるみたいだから
連絡先教えてくれないかな?

たまに会ってあげてくれない?』



と言って来た。



「僕でいいなら全然大歓迎です」



僕らは連絡先を交換した。



交換した連絡先の名前には、

"M"と書いてあった。



「…えむ?なんて呼んだらいいですか?」



『あ、みかです!笑』




「ミオちゃんに、ミカさんですね。
よろしくお願いします。

僕は、ユウキです」



『どんな漢字なの?』



「"優"しいに、"希"望です」



『優しい希望か…いい名前』



そう言ってミカさんは微笑んで
ミオちゃんの頭を撫でた。



「ミオちゃんとミカさんは
どんな漢字なんですか?」




『みおは、"美"しい"音"で美音

私は、美しい華って書いて美華』



2人とも名前に"美しい"が入ってて

素敵だなと思った。






僕らが連絡先を交換したのを見て

また会えると美音ちゃんは喜んでいた。




「じゃあ、また。

気をつけて帰って下さい」


僕はお辞儀をして

車に乗り込んでエンジンをかけた。



美音ちゃんと、美華さんが
僕が帰るのを手を振って見送ってくれた。




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