あなたが好きだと言いたかった。

3. ショートケーキ

 「青山、お前さあ誕生日はいつなの?」 「6月だよ。」
「うっそ? 確かうちのクラス 6月生まれって居たよなあ?」 及川君は白々しい目で優紀を見詰めています。
「やだなあ。 そんなジロジロ見ないでよ エッチ。」 「エッチはさすがに無いよなあ 青山君。」
「及川君なら有りそうだけど。」 「えーーーー? ひどーい。」
「だってさあ、こいつねえ、、、。」 「ワー、しゃべるな 北山!」
 今日も朝からドタバタしてます。 相変わらず賑やかですねえ。
もうすぐ中間テスト。 優紀ものんびりしていられないようです。
青山君はノートを借りたり返したりしながら勉強中。 それを見ながら清水君たちが弄っておりますが、、、。
「おらおら、青山を怒らせるなよ! 大変なんだから。」 「お前のほうがもっと大変だよ。」
「何だと?」 「ほらもう、噴火したじゃない。」
「だからやめとけって言ったんだよ。 バカだなあ。」 「バカとは何だ バカとは。」
「バカとはお前のことだ。 以上。」 「青山君まで、、、。」
 優紀は今日もノートを書きながら青山君を心配そうに見ています。 時々、消しゴムが飛んできたりします。
「いて、、、。」 「何処見てんだよ?」
「教科書、、、。」 「今、青山を見てただろう?」
優紀は慌てて教科書に隠れるんですが、同級生たちはクスクス笑っています。
休み時間になってもみんなは優紀をじーっと見詰めていますねえ。 「なあに?」
「何でもないけど、お前 青山を見てたよなあ? 何か有るのか?」 「何にも無いわよ。」
「へえ、、、。」 「人のことより自分の心配をしたらどうだ?」
「そうだそうだ。 もっと言ってやれーーーー!」 教室はまたまた騒がしくなってきました。
「これだからダメだっつうの。 あんたら幼稚園児かい?」 「そうでーーーーす。」
北島がおどけて見せたものだからみんなひっくり返りました。 「全員集合じゃないんだからさあ。」
「大丈夫だあ?」 「大丈夫じゃないよ。 まったく、、、。」
「お宅ら、テレビ見過ぎねえ。」 「あんた、タブレットのやり過ぎねえ。」
「いい加減にしなさいっての。 これだから試験はワースト1位なのよ。」 「あんたがね。」
「んもう、、、。」 「いいからさあ、勉強しようぜ。」
「一番やらない人が言っても、、、、、なあ。」 「何だよ?」
「いいから教科書を見なさいよ。」 「見てるよ。」
「それさあ、保健体育の教科書なんだけど、、、。」 「うわ、エッチな本見てる。」
またまた大騒ぎの始まりです。 どうにもこうにも困ったクラスですねえ。
 優紀はやっぱり青山君が気になるようです。 (6月だったよな、、、何日なんだろう?)
そんなことを気にしながら帰る途中、ケーキ屋さんに立ち寄りました。 買う予定は無いんだけど、、、。
「ショコラか、、、美味しそうだなあ。」 ケーキを見ながら想像するのは青山君のことばかり。
バス通りもラッシュアワーを迎えたらしく車が喧しいくらいに行き交っています。
今日の練習も大変だった。 コーチもすごく真剣で厳しかったなあ。
やる気を無くす人も出てくるんじゃないかって心配してるけど、、、。

 ケーキ屋を出て歩いていると一人の高校生が近付いてきました。
「青山君って知ってる?」 ドキッとした優紀は顔を背けましたけど、、、。
「知ってるんだよね? 何処に住んでるのかなあ?」 「私、知りません。」
優紀は思わず駆け出してしまいました。 でも高校生が追いかけてくる様子は有りません。
どれくらい走ったのでしょうか? 優紀は家の前に立っていました。
「お帰り。 どうしたの? 真っ青な顔して。」 「何でもない。」
お母さんは何だかキョトンとしています。 確かに青ざめた顔をしているのに、、、。
「何も無ければいいんだけど、、、。」 「試合前なんだからさあ。 いろいろ有るよ。」
「それだけならいいんだけど、、、。」 「心配か?」
「いつもと違うからさ、、、。」 「じゃあ、俺から聞いとくよ。」
優紀の兄、武彦が居間に入ってきました。 優紀はさっきの高校生が気になって仕方ありません。
心配したってどうしようもないことは分かっているんだけど、、、。 「青山君って知ってるよね?」
制服を見たらそう思うのも無理は有りません。 だってクラスメートなんだもん。
だけど、その子がどの高校なのか優紀には分かりません。 それだけでも不安なんです。
(もしもまた青山君に何か有ったら、、、。)
こないだも事件が有ったばかり。 だから先生たちもピリピリしてるんですよね。
他の誰が狙われても同じこと。 心配は尽きません。
 そんな不安を抱えたままで今日もグラウンドへ、、、。
「よしよし。 北村も投げて来い。」 「いいんですか?」
「お前は先発することが多くなるんだ。 ちっとは体を鍛えないとな。」 「はーい。」
「はーい、、、じゃなくてだなあ。」 「しっかりしろよ。 北村。」
みんなに押されてグラブを手に取った北村君ですが、、、。 「どうしたんだ?」
「豆が、、、。」 「そんなもん、煮て食べちゃえよ。」
「そんなこと言ったって、、、。」 「まあまあいい。 投げて来い。」
コーチも苦笑いしながら北村君の背中をポンと叩きます。 豆くらいで弱音を吐いちゃダメですよ。
 マウンドで振りかぶる北村君を見て青山君も気が気じゃない様子。 「腕が下がってるなあ。」
「おーい、北村! 腕を上げろ!」 名志田先生も心配そうに見ていますね。
 「地区大会の相手は必ず打ってくる。 うまく打たせるんだぞ。」 そう言いながらバットを握ります。
 「コースはいいんだよな。 後は球の力だ。」 「球ってこれかい?」
球拾いをしている柿沢直也が股間を指差します。 「アホか。 お前の玉なんぞ誰も見てないわ。」
これにはさすがのコーチも笑いをこらえている様子。 「柿沢はやっぱりレギュラーにはなれんなあ。」
「そんなーーーーー、、、。」 「いいからお前は球拾いをしてろ。」
こんなやり取りを聞きながら優紀はスコアブックを書いています。 「今日はフライが多いなあ。」
「いいんだ。 あれだけ打たせることが出来れば。」 「いいの?」
「犠牲フライでも点は入る。 抜けてくれれば儲け物だよ。」 「そっか。 そうですよね。」
青山君は初めて優紀の安堵した顔を見ました。

 その帰り道、昇降口を出てきた優紀は青山君の後姿を見付けました。 肩には見慣れないポーチが、、、。
気になって近付いてみると、、、。 「これさ、葵が使ってたやつなんだ。」
「そうなの?」 「今も葵は入院してる。 落ち着いたら一緒に買い物にでも行こうと思ってさ、、、。」
やっぱり妹のことを思うと青山君はしんみりしてしまうんです。 「まだ悪いの?」
「うん。 精神的にはまだまだなんだ。 ケガはだいぶ良くなったんだけどね。」 優紀は夕日を見詰めている青山君の表情にまたキュンキュンするのでした。
 その夜、布団に潜り込んでも優紀は青山君のことが気になって仕方ありません。 「聞いちゃいけないことを聞いちゃったな。」
あの寂しそうな顔、、、それがいつまでも忘れられないのです。
次の日も青山君とは何も無かったように話しているのですが、やっぱり気になります。 (好きなのかな?)
机に向かうとそんなことばかり自問自答を繰り返し、、、。 「何ボーっとしてるんだ? 授業終わったぞ。」
誰かが声を掛けても聞こえているようないないような、、、。
 舞子たちもいつものように話し掛けてきますが、優紀はどっか上の空、、、。 「変だなあ。」
周りで清水君たちがソワソワしていてもお構いなし。 みんなはまるで空気のようです。
 ボーっとしたまま今日もグラウンドへ、、、。 青山君が投げている姿をじっと見詰めているのです。
(6月生まれだって言ってたな。 何日なんだろう?) ぼんやりしている所へボールが飛んできました。
「いてーーーーー!」 思わず大声を出してしまったものだからコーチがみんな振り返りました。
「おいおい、ちゃんと取ってくれよ。」 「すいません。」
「あいつ、青山にやられてるぞ。」 「こら、余計なことを言うんじゃない。」
青山君はボールが飛んで行った優紀の傍に走って行きました。 「ごめんね。」
差し出した手に優紀はボールを渡しながら思わず、、、。 「何ボーっとしてるの?」
赤くなっている優紀に青山君は怪訝な顔で聞きますが、、、。 優紀は何も言えずに座り込みました。
大会まであと少し。 そろそろ対戦相手も発表される頃です。
みんなはとにかく打つことに集中している様子。 黙々とバットを振っています。
名志田先生もいつか腰を据えて指示を飛ばすようになりました。 「これならやれそうだな。」
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