あなたが好きだと言いたかった。
 優紀はそんな青山君の視線に思わずポーッとなってしまいました。 「こらこら、そこでボーっとするんじゃないよ。」
名志田先生の声に優紀は思わず真っ赤になるのでした。 「こいつーーーー。」
 「からかうのは後だ。 杉下。」 「すいません。」
「さあ、試合も巻き直しだ。 気合を入れていこうぜ!」 「お前は入れ過ぎなんだよ。 ブンブンちゃん。」
「ブンブンちゃんって何だよ? ブンブンちゃんって?」 「まあいいからいいから落ち着いて。」
 朝から乱闘やら何やら問題ばかりの試合は再開されましたが、スタンドはどうも気合が入らない様子。 不気味なくらいに静かになってしまいました。
「おいおい、どうなってんだよ? これじゃあまるで葬式じゃないか。」 「心配するな。 打てばいいんだ。」
 その言葉通り、この回はヒットが続きます。 ノーアウト満塁です。
「ちきしょう。 何であいつらはこんなに打つんだ?」 「お前の球が重いから当てに来てるんだよ。」
「当てに?」 「そうだよ。 飛ばそうとしたって飛ばないんだ。 だったら当てるほうがいいだろう?」 「そうか。」
 「3番 ファースト 吉田君。」 「撃てよーーーーーー! かっ飛ばせよーーーーーー!」
スタンドから聞こえてくるヤジのような怒号のような声にみんなは大焦り。 「飲み込まれるんじゃないぞ。」
「分かってます。」 吉田君はバットを抱えて左ボックスへ。
「あれ? こいつって右じゃなかったっけ?」 沢谷君も唖然としていますが吉田君はスイッチヒッターなんです。
 ズドーン! 150キロくらいのストライクが決まりました。
「次だぞ!」 何処からかそんな声が、、、。
 吉田君はもう一球見送ってコンと当てました。 「セーフティーだ! 頼むぜ!」
ですが中村君たちが慌てたのか処理に戸惑ってます。 その間に二人がホームイン。
 「なんだいなんだい、あれじゃあボロ負けじゃないか。」 スタンドからは冷笑もこぼれてきました。
「やったあ。」 「馬鹿。 喜ぶのは早過ぎる。」
 「北村、ちっとはチームの空気を考えろよ。」 「すんません。」
「謝ればいいってもんでもないんだぞ。 プロに行ったら糠喜びは厳禁だ。」 「はあ、、、。」
 「さてと一人はアウトになったけどまだまだ二人が塁上に居る。」 「次でどう返すかがポイントだな。」
「よし。 4番は青山だ。 行ってこい。」 名志田先生がそう言って青山君の背中を押しました。
 「選手の交代をお知らせします。 4番 サード 富岡君に代わりましてピッチャー 青山君。 4番 ピッっちゃー 青山君。」 「えーーーーーー?」というどよめきが起こった。
青山君はバットを持つと自分を引き締めるように空を仰いでからバッターボックスに入った。 「出てきやがったな。 貰ったぜ!」
 ズドーン! 2球続けて青山君は見逃しました。
(こいつ、何で撃たないんだ?) 3球目を構えたところでキャッチャーの吉永君がピッチャーの所へ。
「青山はアウトコースを狙っている。 撃たれるぞ。」 「打てるものなら撃ってみればいいさ。」
 ところが、、、。 そのボールがとんでもない所へ、、、。 「何やってんだ! 引っ込めーーーーー!」
キャッチャーの吉永君がやっと押さえましたが、、、。 それを見て二人がダッシュ。
2塁3塁に進めてしまいました。 「なんてこった、、、。」
 これには相手の監督も渋い顔をしています。 名志田先生も厳しい顔で青山君を見詰めていますね。
 それからさらに2球続けて外してしまった沢谷君は後が有りません。 「どうにでもなれ!」
カン! 無我夢中で投げ込んだボールが空高く飛んでいきました。
 「スリーランだあ!」 スタンドからはもはや勝負有りという声まで聞こえてきました。
6対0、、、。 これまでこんな試合が予想できただろうか?
毎年、地区大会初戦大敗の高校が初戦を通過したんです。 優紀は何となく自分が信じられない気がしました。
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