音が好き
 ぎぃ……。


ホールの扉が開く、重々しい音がし、果子さんともう一人の男の人がホールに入ってきた。


「あっいたいた〜〜! 遥花〜〜‼︎ 久しぶり〜〜! 来るの早いじゃん! 親御さんは? 」

「えっと……、久しぶり! 果子さん! 今両親はカフェにいて……。」


私を見つけた途端に、目をキラキラさせてこっちに向かって猛突進してきたので、びっくりして返事に戸惑ってしまった。

でも、相変わらずだな、そういうところ。

果子さんはいつも元気で、ハイテンションで、男気がある。



ーー

 果子さんは、かっこいい。

ショートヘアーが良く似合う、キリッとした顔立ちをしている。

背も高くて、175センチあるらしい。


いつも明るくて、ポジティブで、自分の意思がしっかりとしている果子さんは、私の憧れだ。

男の子に負けない力強さや、目を見張るようなテクニックで、ピアノでは大活躍。本当に素敵で、かっこいい人だ。


 だから、そんな凄い人に私の演奏を聴いて欲しくない。

恥ずかしいし、もしがっかりさせちゃったら……。そう思うと、気が気じゃない。

ーー



ずいっ

急に、果子さんが身を乗り出してきた。


「遥花に会えると思うと、もう居ても立っても居られなくて! 僕オシャレして来ちゃった! どうだ⁉︎」


果子さんに目を向ける。


髪型は相変わらずのショート。

だけど、キラキラのヘアピンが付いていて、良いアクセントになっている。

首に巻かれたチョーカーも、かっこよくてよく似合ってるいる。

服装に視線を落とすが、服のことはよく分からない。
ただ、直感でオシャレでかっこいいなぁ、と思った。

あれっそういえば、メイクしてる? 
え〜!、果子さんがメイクしてるの、初めて見た‼︎


「果子さん、メイクしてるんですね! 始めて見ました‼︎ キラキラのヘアピンとか、チョーカーとか、服は……、よく分からないですけど。でも、オシャレでかっこいいですね! あっあとその厚底の靴も! 」

「っ……‼︎ ありがとう〜〜! 遥花〜〜♡ 大好きだよ〜! 」


ぎゅ〜〜♡


「わっちょっあのっ……、は、離してください〜! 」

「あと、そのドレスすっげーかわいいな! 色もくすんだ水色でオシャレだし、上半身のレースとか、首まであるデザインとか、すごい大人っぽい! これなら音も惚れちゃうな! 」

「なっななっ、なんでそこで音くんが出てくるんですか⁉︎//」

「敬語やめろって言ってんじゃん〜! 私のことも果子って呼んでよ! 」

「今はそんな話してないです〜〜! 」



 ぐぇっ


「こらこら、遥花さん、困ってるじゃん。ちょっと落ち着いて。」


私から果子さんを引き剥がしてくれたのは、もう一人の男の人。


「あっありがとうございます……! あの、あなたは果子さんの、その……、彼氏、ですか? 」

「「違う‼︎// 」」


えっ違うのか〜。でも、お互い耳真っ赤だよ?


「僕は湖東雅(ことうみやび)。果子の同級生なんだ。よろしくね、遥花さん。」

「はいっよろしくお願いします。」


礼儀正しくて、涼しい雰囲気の人だな。果子さんとは正反対(笑)。



「えっ雅さん、ヴァイオリン演奏科なんですか⁉︎ 」

「そうそう。ヴァイオリニストになりたくて。」

「ヘぇ〜〜。凄いですね! 」

「でも、ピアノは全っ然弾けないんだよ〜〜! きらきら星すら危うい! 」

「ちょっと果子、やめてよ。そっちこそ、ヴァイオリンの持ち方すら知らないだろ。」

「なっ……!、なぜそれを……。」


私たちはそれから、仲良く話をした。

初対面の雅さんとも打ち解けて、最初は名字で呼んでいたのに、名前で呼ぶようになってしまった。

緊張が、だいぶ取れた気がする。

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