海みたいな空と嘘をつけない夏
「夏菜は?」

「えっ?」


 空が急に振り向いたからドキッとする。


「好きな人いないの?」

「…いないよ」

「ふーん」


 ザザ…ン

 波の音に、パタパタと鳴るビーサンの音が吸い込まれていく。

 空がふぁ、と欠伸をした。


 もし春樹だったら、こんなふうに空を退屈させることもないんだろうか。


 防波堤を降りて、急な坂道を登っていく。

 登った先は道が二手に分かれていて、右に行けば空の家、左に行けば私と春樹の家がある。


「あ。読みたがってた漫画、ユウヤから返ってきたけど持ってく?」

「あ、うん」

「春樹には内緒にしろよ。あいつ絶対汚すから」

「…好きな人なんじゃないの?」

「それとこれとは別」
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