花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「私、妊娠しているんです」


真っすぐに見つめられ、息を呑んだ。


「おめでとう!」


「祝い事続きだな、高野!」


どっと湧きかえる室内で、私だけが取り残されたように、呆然としていた。


妊娠って……浮気を確実にしていましたって宣言?


なんで、そこまで憎まれて、目の敵にされなきゃいけないの?


腹立たしさ、悲しみ、戸惑いといった感情が溢れ、胸がジクジク痛む。

久喜と結婚できなかった私には魅力がないとレッテルを張られたも同然だ。


「今、言わなくていいだろっ」


「どうして? 直接伝えたほうがいいでしょ」


黙り込む私の前で、主役のふたりが小声で言い争う。

すべてが茶番に見えて、自分が情けなくて惨めで、早くこの場から去りたかった。


「……おめでとう、体を大切にしてね」


最低限の礼儀を尽くして、踵を返す。

幹事の女性がなにか言いたげにしていたが構わずに料金を支払い、周囲の声を無視して足早に店から出た。

自分の感情がぐちゃぐちゃでどうしていいかわからない。

凛の言う通り来るべきじゃなかった。

だけど、欠席していたら会社できっと同じ真似をされただろう。

勤務先よりは自由に出ていける店のほうが何倍もましだ。


「社会人としての矜持は守れたじゃない、頑張ったわよ」


滲みそうになる視界を瞬きしながら誤魔化し、つぶやく。

明るいネオンと人混みが嫌で、遠回りでもいいとできるだけ人気のない道を選び、急ぎ足で駅へと向かう。

知り合いには会いたくないし、みっともない表情を見られたくない。
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