花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
周囲の喧騒が聞こえなくなり、大きく息を吐く。

やっとまともに呼吸ができた気がした。
 
握りしめたブーケは綺麗なのに、愛でる心の余裕がない。

昨夜、実家の両親に久喜との結婚が白紙になったとやっと報告すると母には泣かれ、父は明らかに動揺していた。

理由を散々問い詰められ、情けないのを覚悟して真実を告げると、落胆を露にした母に、すぐに見合いをするよう厳命された。

正直、結婚に夢を抱けなくなってしまった今、見合いなんてしたくない。

恋人に裏切られ、疎まれて終わるような私をずっと好きでいてくれる男性になんて巡り合える気がしない。

今でも自分のなにがダメだったのか、決定的な原因がわからずにいるのに。

致命的ななにかが私にあるなら、きっと誰と一緒にいても同じ結末になる、それが怖い。

夕方すぎに降った雨のせいか地面は濡れ、道路には大きな水たまりができていた。

パンプスが水たまりに入らないよう下を向いた途端、バシャッと大きな音がして大量の水がかかった。
 
驚いて、勢いよく道路を見たときに華奢なヒールが歩道のくぼみにはまり、バランスを崩し転んでしまった。

濡れたアスファルトに真っ白なスカートが広がって、咄嗟に地面についた手のひらからは血が滲んでいた。
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