花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「あの、私には高価すぎて支払えませんから……」


「俺に贈らせて。返金も断られたし、汚した服の弁償もしていない」


「いいえ、クリーニングに出していただきましたし、宿泊料も支払うのは当然です」


遠回しに断るけれど、一向に聞き入れてくれない。

最終的にはドレスを受け取らないとほかにも服を贈ると言われ、仕方なく了承した。


「申し訳ございません。あの、今さらですが私に服を贈ってくださって立場が悪くなられたりしませんか?」


彼ほど有名で注目度の高い人なら、一挙手一投足を見られているのではないだろうか。

見とがめられたりしないかと心配になる。


「……ああ、俺の素性を調べたから?」


彼の表情が一気に硬くなり、室内の温度が急激に下がった気がした。


「いいえ、さっき、ビルの液晶画面で知りました」


「ホテルから帰って検索したんじゃなく?」


「違います、調べていません」


否定すると、彼が片眉を上げる。


「なぜ? 気にならなかった?」


率直な質問にたじろぎながら、惹かれる気持ちに気づかれないように必死に言葉を紡ぐ。


「見知らぬ他人同士だからこそ、と、あの日話してくれましたし……思い出として大事にしたかったので」


「なるほど、思い出か」


私を黙ってしばらく見つめた後、なにかに納得したように声を発した。

機嫌も戻っているようで、安堵する。
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