花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
ドレスと靴を渡され、ため息を吐く。

以前の夜の再現のようだと独り言ちながらも着替え終えて、試着室のドアを開けた。


「とてもお似合いですわ」


「ありがとう、ございます」


賛辞が気恥ずかしくて頬が熱くなる。

上質な生地のドレスは軽く、肌ざわりが素晴らしい。

動くたびにふわりと揺れる裾がとても綺麗で、用意された光沢のあるパンプスのヒールは高いのに、歩きやすい。


「葵様に、先ほど結婚式に出席されると伺ったのですが近々ですか?」


「はい、今度の土曜日です」


「まあ、急がれる理由がわかりました。さあ、どうぞドレス姿を楽しみにされていますよ」


なにか誤解されている気がしたが、店員に促され結婚式に関する世間話をしつつ葵さんの待つ場所へと向かう。

店員の声掛けにスマートフォンから顔を上げた彼が私に視線を向け、僅かながら目を見開く。


「よく似合っている。バランスもいいな」


「ありがとうございます……」


店員と同じ返事をすると、葵さんは満足そうに目を細めた。


「気に入った?」


「はい、着心地もとてもよくて素敵です」


「これをいただく」


私に確認した後、すぐ店員に言い放つ姿に焦る。


「ま、待ってください!」


いくらなんでもこのドレス代金を支払う余裕はない。


「いいから、逢花は着替えておいで」


私の反応を意にも介さずに、ちょうど着信を知らせたスマートフォンを手に個室を出ていく。

途方に暮れていると、店員に再び促され着替えをすませた。

きちんと話をしなくてはと待っているとドアが開いて、葵さんが戻ってきた。
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