花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
さらに私の顎を両手で掬いあげ、髪、こめかみ、頬と順番に口づける。

びくりと肩が跳ね、無意識に腰が引ける。

唐突に始まった、まるで甘やかすような行為に戸惑う。

触れられるのが嫌なのではなく、抱きしめられる理由を知りたいのに、上手く言葉にできない。

骨ばった指が耳の裏を優しくかすめ、顔を背けて逃げるのを阻止される。

ゆっくりと長いまつげを伏せた彼が美麗な容貌を傾けて、私の唇を自身のもので塞いだ。

触れる柔らかな感触とは対照的に、深く熱い突然の口づけに頭の奥がしびれる。

葵さんにキスされると、心がたちまち占拠される。

こんな風に感じた経験は今までになく、ダメなのに、話をするためにここに来たのに、また流される。


ねえ、どうしてキスをするの?


「……結婚しよう」


口にできない疑問を抱えていると、ほんの少し唇を離した彼から耳を疑う言葉が聞こえた。


人生初めてのプロポーズは、唐突で淡々としていた。
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