花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
6.結婚 ≠ 恋愛
「今、なんて……?」


発した声は自分のものとは思えないくらいに掠れていた。

呆けたように目を見開くと、彼が啄むようなキスを仕掛けてくる。


「結婚しよう」


「どう、して?」


ここに来たのは、私たちの関係性をはっきりするためじゃないの?


「口説く予定だと言っただろ?」


私の頬にかかる、ほつれた毛先を指で弄びながら、葵さんが首を傾げる。


「あれは……冗談じゃ」


「まさか。逢花に嘘はつかない」


きっぱり言い切られ、開いた口が塞がらない。


「私たちは出会ったばかりで……恋人でもないのに」


混乱で、文脈がたどたどしくなる。


「だから、都合がいい」


指の中にある髪にキスを落とし、トンと私の背後のドアに手を置く。

プロポーズらしからぬひどい言葉なのに、まだ期待してしまう自分の浅ましさにうんざりする。


「俺たちは恋人と認定され、SNSもどんどん拡散している。マスコミ関係に伝わるのも時間の問題だし、下手に騒がれるより先に発表したほうがいい」


冷静な状況分析に心が一気に冷える。


「俺は周囲、とくに親族から結婚をせっつかれている。長男としての責任を果たせと」


突如変化した話に、理解が追いつかず首を傾げる。
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