花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「いっそ例の詐欺女にでも騙されたらいいのよ」


苦々しい口調の親友に、小さく首を横に振る。

当社社員を名乗る女性が独身の男性社員に言葉巧みに近づき、誘惑して金品を貢がせたり、結婚を仄めかし、行方知らずになるという詐欺まがいの事件が近頃数件起こっていた。

被害者は全員、葵株式会社のいわゆるエリート社員で、真面目な気質の、恋愛に不慣れな男性だった。

会社側は、グループ全体の懸念事項として全社員に通達で注意喚起を行っている。


「あの子、どうやら前の勤務先でトラブっていたらしいわよ」


「前のって……加賀谷(かがや)商事? よく知ってるわね」


「勤めている友人に聞いたのよ。仕事の評価は高かったけど、人間関係で揉めて転職したんですって。まあ、うちでも似たような状況よね」


そう言って、凛は渋面を浮かべた。

私たちは新宿駅から徒歩十分ほどの場所にある、株式会社(つつみ)インテリアに勤務している。

凛も私も同じ営業課所属だが、凛は商品デザイン担当で私は主に買い付けなどを含めた商品管理を担当している。

堤インテリアは世界中に五つ星高級ホテルを展開している大企業、葵株式会社の傘下のひとつで、元々はホテルで使用する家具や雑貨の製作会社だったと入社説明会で聞いた。

現在は、一般消費者向けの雑貨店も運営している。

ちなみにうち以外にも葵株式会社の傘下はレストランなどの飲食店を含め、多岐にわたる。
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