花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
葵財閥と言われる葵家は歴史ある名家で、現会長とその息子は非常にやり手で業績は右肩上がりだ。

社長に就任したての御曹司は三十歳の独身で、毎日山のような縁談が届いているらしい。


『身長百八十五センチの超イケメンだけど、ほとんど社交の場には顔を出さないらしいわ。ご令嬢たちが御曹司の取り合いで喧嘩するのに辟易しているせいですって』


噂好きで情報通でもある親友は以前、嬉々として教えてくれた。

取材等も積極的には受けないらしい。

ホームページの小さめの写真を見せられたけれど、住む世界が違うこともあり、サッと視線を向けただけであまり記憶に残っていない。


『日本最難関の大学を首席で卒業したうえ、物腰も柔らかくて、紳士で誠実な人柄だそうよ。でもなぜか、プライベートは一切秘密なんだって』


有名人だから秘密なのでは、と当時の私が告げると、凛は楽しそうに口角を上げて言った。


『逢花のそういう、真面目で現実的な考えが好きよ』


半年ほど前の会話をふと思い出していると、凛に再び話しかけられた。


「ねえ、本当に今日の送別会行くつもり? 大丈夫なの?」


「ずっと指導してきた後輩だし、欠席は失礼でしょ」


本音を言えば、行きたくない。

でもこれからも勤務し続けるなら体裁は取り繕わなければ。

ただでさえ、下世話な噂が広まっているのだから。


「あの性悪女、よくも私たちに声がかけられたわね。私は今夜接待があるから行けないけど、挨拶だけ済ませたらさっさと帰りなさいよ?」


「ありがとう、大丈夫。お祝いだけ伝えたらすぐに帰るわ」


辛辣な物言いをしつつも、心配してくれる凛の優しさが嬉しかった。

会社に到着し、自分たちの席に向かうため別れた。
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