逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「ああ、あの件だな。あの者は東の港街で見かけたとの噂があるぞ。なんでもその奥の娼妓館に通っているとか。あいつは最近奥方を失っておる、そういう気になっても誰も責める者はおるまいよ」

「陛下!」
 さすがにシュテルツも、
「それを誰からお聞きになったのですか?」

「誰からと言われてもなぁ。そこら中に噂がたっているそうだ。・・ああ、確かラクレス領は後継者が娘ひとりだったな。なんとも心もとないと思わないか。もしダン・ラクレスに何かあったのなら、そうだな、領地没収も考えねばな。国境の領だ、国の盤石のために今から考えておくべきだな。うん、それならあの領土は誰に分け与えてやろうか・・」

 領地の危惧を、最後は楽しげに語った。

「後継者といえば、わしの世継ぎの王子は賢くなってきてな。まだ五歳だというのに読み書きが出来るのだぞ。なんならこれから会わせてやってもよいのだが」
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