逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ラナは困ったようにうつむいた。そして仕方なさそうに、
「あの人たちは、バッハス軍から追われている・・と言っていたわ」
「追われている?」

「もともと国境の境目に住んでいて、バッハス側に組み入れられて兵士になったそうよ」
「・・・・」

「それでこの間バッハスが越境して来たでしょう。それに従軍していたんだけど、この国に剣を向けることに嫌気がさして逃げたんだそうで」

「敵前・・逃亡か」

 それは軍規違反でも重罪にあたる行為だ。
「バッハスに追われて負傷して、命からがらここまで来たと言っていたわ。そんな彼らをソフィー様は助けてあげたのよ」

 ああ・・、と思った。最初にこの洞窟へ来たとき、ソフィーは言っていた。
『彼らは、体が回復したらそのまま帰ってくれたらいいんだけど』
 と。

 こちら側にはラクレスの負傷兵が大勢いる。
 彼らがバッハスの軍服を見たらどう思うのか、一触即発で流血の事態になるかもしれない。
 そんな状態で彼らまで面倒を見ていたのだ。

「いやはや、なんともすごいお嬢様だな」
「・・え?」
「あ、いや何でもない」

 手を振って洞窟の中に入って行った。
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