逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 一国の(あるじ)がいなくなって、王宮が揺らいでいた。

 今までのグリンドラ派に対して、敵対する派閥が現れたのだ。
 以前から水面下で暗躍していた一派だった。
 それが王の急逝で台頭してきたのだ。

 まさか、と誰もが思った。新興勢力が大勢を掌握することはないだろうと。
 しかしじわじわ防波堤が削ぎ落されるように何かが崩れていく。
 そんな気配が王宮を包んでいた。

 昨日までの仲間は信じられるのか。
 どの勢力がどう動くのか、自分は果たしてどの派閥につけばいいのか。

 まさに、疑心暗鬼の世界だった。

 宰相のシュテルツは(ほぞ)を噛む思いだった。

 今はこんな権力争いをしているときか。
 バッハスの脅威が間近に迫っているのだ、一丸となって立ち向かうべきなのだ。

 彼は声を枯らして叱咤した。
 しかし権力に目がくらんだ者には届かなかった。


 そして、重大な局面はそのあとすぐにやって来た。
< 228 / 493 >

この作品をシェア

pagetop