逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「おい、見ろ、水の流れが変わったぞ」

 城壁を洗う波は勢いを削がれたかのようだった。
 小さくヒタヒタと打ち寄せている。
 
 片隅から声にならない声が漏れた。
 つぎに安堵の声が湧き上がる、それが全体に広がっていった。


 バッハス軍の惨敗だった。

 本体は水に呑まれて流されていった。

 それを逃れた兵は全力で敗走している。
 二階で生き残った者はすべてが降伏した。

 辺りに満ちる水、水、水・・。

 戦闘の怒号も、戦禍の傷跡も消えていた。

 押し寄せる大軍の影も、この国をかすめ取ろうとする野望も、すべてを大量の水が覆い尽くしていた。
< 297 / 493 >

この作品をシェア

pagetop