逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 その騒ぎの合間に、呼び掛けてくるような音があった。
 サラサラと、波長の違う何かが響いてくる。

「あれは?」
 アーロンが音源を追おうとし、宰相がその先に目をやった。
「ああ、この検問所に引いている疎水です」
「そすい?」
「ここで使う水をあの丘から引いているのです。この向こうに水路があります」

 指差したのはなだらかな丘だった。その中央に水路が見える。
「あの水路に沿って柵がありますね、あれはいったい」
 水路の両側に衝立のような柵が作られていた。

「大雨になると水路が壊れるほどの流れになるのです。だからあの柵で補強しているのです」
「なるほど、それを見せてもらえますか」

 宰相が案内する。
 検問所の側に貯水池があり、上部から水が流れ込んでいた。
「この水源地は、あの丘の上ですね」
「そうです、あの小高い所にあります」

 アーロンは方角を確かめた、そして、
「その丘の向こう、裏側には何が?」
「センダの郊外になっています。坂を下りるとグリント―ルのフレッグ領が続いています」

 そこまで言って宰相がはっとした。
「もしかしてあの柵に隠れて行けば」
「そうです、戦っている兵には見えない」
 ア―ロンがうなずいた。
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