逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

　母親が、
「息子はやけになっているんです、許してください後生です」
「それならとっとと立ち去ることだな」

　母はあきらめて帰ろうとした、だが何を思ったのか、
「この品をグリントールに届けてもらえませんか」
「なにをまだグダグダと」
「お願いします、これをラクレス家に届けてほしいのです」

　アーロンの足が止まった。

　そこへ近づくと、
「ラクレス家に届けてくれと言ったな。お前は何者だ」
「私はあの家の使用人・・でした。ソフィー様の乳母で、小さいときからお育てしたのです」
　
　改めて女を見る。
　目が悲し気にアーロンを見ていた。
「ソフィーの乳母だと？」
「はい」

「その証拠は？　お前が本当に乳母だという・・」
　そこまで言って、いや、と言葉を切った。

「お前は知っているかフィアーラを、あの屋敷のフィアーラだ」
「お嬢様とご両親が育てた花ですね」
　即座に答えた。
「春になると咲き誇って、それはきれいな花でございます」